【明治東亰恋伽】もしもがあるなら 参

第捌話＿西洋ドレス ページ15

「Aちゃん」



『？』



「ひとつ提案があるのだけれど、いいかな」



鴎外さんが音二郎さんの肩越しに声をかけてくる。私は音二郎さんから離れ、鴎外さんと向き合った。



「子リスちゃんが明日、鹿鳴館の舞踏会に参加するのだよ。そこで、Aちゃんにも一緒に参加して欲しいのだ」



『舞踏会……』



「集うのは身分の保障されている者ばかりだからね。今回のような事は絶対にないと約束しよう。どうかな？安心だろう？それと、これを君に」



そう言って目の前に置かれたのは大きな包みだった。



『……これは』



「子リスちゃんとお揃いの西洋ドレスなのだよ」



『？！』



「どうだい？Aちゃんも子リスちゃんと一緒に参加しないかい？せっかく仕立てたのだから、僕としては袖を通してくれると嬉しいのだけれど」



そう言って鴎外さんはにっこり笑う。
私は目の前に置かれている包みをじっと見つめた。
……受け取っても、いいのだろうか。
本音を言えばとても嬉しい。鴎外さんの気持ちも、芽衣さんとお揃いだということも。
明治時代に来て、鴎外さんから“贈り物 ”として物を貰うのは2度目だ。つくづく人に恵まれたと思う。



『……ありがとうございます』



私は鴎外さんの手から包みを受け取る。



「！」



「A……」



「Aさんっ……！」



『舞踏会、楽しみです』



「そうかい！それはよかった」



鴎外さんも音二郎さんも芽衣ちゃんも、私の言葉を聞いて嬉しそうに笑ってくれた。







その日の夜。私は明日への期待でワクワクしながら眠りについた。





不安は感じなかった。




.

第玖話＿鹿鳴館→←第漆話＿体温

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す