Another:芽衣 ページ11
「こんにちは、Aさん!」
「やあ、Aちゃん」
『……』
部屋に入ってまず視界に入ったのが敷布団。
そこには誰もおらず、何故か部屋の隅に掛け布団があった。そこから覗く双眸はじっとこちらを見つめている。
挨拶をしても帰ってこず、動く様子も見られない。かといって拒絶する様子もない。
距離があるからなのかはわからないけれど、追い出されることはなさそうだと感じた。
「あの……」
「……ずっとこんな調子なんだよ」
戸を締めながら、音二郎さんが小声で言う。
何があったのかは聞いた。それは自分だったらと思うとゾッとする程理不尽で、酷い内容。
私は聞くだけでも涙が溢れそうだったのだから、Aさんはそれ以上に傷ついたはずだ。
だからこそ、力になりたいと思ってここへ来た。
鴎外さんも女性の君ならと承諾し、見守るためについてきてくれた。
怯んでいてはいけない。プレッシャーをかけても、追い詰めてもいけない。安心できる雰囲気を作って、話をしなくては。
痛みを少しでも分け合えたら、引き受けられたら、そう思っていることを伝えなければ。
「あの、Aさん」
無理に笑う必要はない。楽しい話をするわけじゃないのだから。
「私のこと、わかります?」
そう言って布団をじっと見つめる。
『…………芽衣ちゃん』
消え入りそうな小さな声だった。でも確かに私の名前だった。呼んでくれたことが嬉しくて、私は明るく「はい!」と答える。
「体の調子は、いかがですか?痛いところとか、ありません?」
『……うん』
「で、では、何か食べたいものとかあります?」
『……ない、かな』
「えっ、あっ、そうですか……」
そう言って肩を落とす。
どうしよう……会話が広げて楽しい雰囲気を作りたいのに……。
Aさんを傷つけずに励ましたいのにうまくいかない。
私は眉間にシワを寄せ、頭を抱えて「うぅーん……」と、唸る。
すると布団の方からふふ、と小さな笑い声がした。
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小崎相良(プロフ) - Koma?さん» お返事遅くなりすみません!ありがとうございます! (2022年1月22日 18時) (レス) id: 6783c5a7bd (このIDを非表示/違反報告)
Koma?(プロフ) - ちょーぜつ面白いですね!最近めいこい見始めて最初に出会った作品がこれで良かったです! (2022年1月16日 11時) (レス) id: 286de14237 (このIDを非表示/違反報告)
小崎相良(プロフ) - 二酸化酸素さん» ありがとうございます!嬉しいです! (2021年7月21日 22時) (レス) id: b1e523f101 (このIDを非表示/違反報告)
二酸化酸素(プロフ) - 本当にゲームをしてるような気分になりました (2021年7月19日 1時) (レス) id: f6be19e74d (このIDを非表示/違反報告)
小崎相良(プロフ) - 鈴華さん» 楽しんでいただけたなら幸いです(o´艸`)!こちらこそ閲覧頂きまして、ありがとうございました! (2020年8月4日 23時) (レス) id: 5536140bcb (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:小崎相良 | 作成日時:2020年2月23日 10時