【追いかけてテラスへ出る ２】 ページ28
『……』
「Aサン」
『……はい』
「なにがあったのですか？」
眉尻を下げこちらを見る八雲さん。
その表情はとても悲しそうで、そんな顔をさせてしまう行動を私が取ったことを実感し、胸が締め付けられる。
話を聞く限り、私と八雲さんの見ていた光景が違ったということは確実だ。八雲さんには私が柵を乗り越えようとしたように見えていた。その行動は、どう考えてもベランダから飛び降りようとしているように見えるだろう。しかし私は、ベランダでナイルさんを追いかけていた。ベランダの柵に登っていた自覚はない。私自身が望むあまりに幻覚を見ていたのか、ナイルさんがなんらかの力でそう見せていたのかはわからない。でも確実に言えるのはその行動の原因となったナイルさんの姿はもうここにはないということ。
もしもこの現象の原因はナイルさんで、私のとった行動がナイルさんの思惑によるものだったとしたら？
私はナイルさんの気まぐれで明治時代にいる。
先ほど会ってそれを確信した。
そして元の時代に私の居場所はない。
それだけのことをポンとやってのける人間なのだ。
だとしたら……
「Aサン？」
体から血の気が引く。
私の顔を覗き込むように見つめる八雲さん。
あくまで仮定だ。仮定だけれど。
多分ナイルさんにとって、
私を“消す”のは簡単なんじゃないか
ということ。
原理はわからないしどうやっているのかなんて見当もつかない。でも話していて感じたのは、“人間を時間移動させるのはナイルさんにとって簡単な事”だということ。
鏡花くんはナイルさんが人でも物の怪でもない“なにか”だと言っていた。それが本当ならこれ以上追うのは、身の危険に繋がるだろう。
『…………』
考えても考えても、最善策は変わらなかった。
『……やくもさん』
「なんでしょうか」
『私、八雲さんと見えていた景色が違ったみたいなんです』
「……？どういう事ですか？」
八雲さんはキョトンとしてこちらを見ている。
『私は探していた“ナイルさん”を、追いかけていたんです。“テラス”の先にいるナイルさんを』
「しかし、ここにあるのはベランダです。そもそもここは二階ではありませんか？」
『はい。でも私にはここがテラスに見えていたんです』
.
【追いかけてテラスへ出る ３】→←【追いかけてテラスへ出る】
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 85人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
小崎相良(プロフ) - Koma?さん» お返事遅くなりすみません！ありがとうございます！ (2022年1月22日 18時) (
レス) id: 6783c5a7bd (このIDを非表示/違反報告)
Koma?(プロフ) - ちょーぜつ面白いですね！最近めいこい見始めて最初に出会った作品がこれで良かったです！ (2022年1月16日 11時) (レス) id: 286de14237 (このIDを非表示/違反報告)
小崎相良(プロフ) - 二酸化酸素さん» ありがとうございます！嬉しいです！ (2021年7月21日 22時) (レス) id: b1e523f101 (このIDを非表示/違反報告)
二酸化酸素(プロフ) - 本当にゲームをしてるような気分になりました (2021年7月19日 1時) (レス) id: f6be19e74d (このIDを非表示/違反報告)
小崎相良(プロフ) - 鈴華さん» 楽しんでいただけたなら幸いです(o´艸`)！こちらこそ閲覧頂きまして、ありがとうございました！ (2020年8月4日 23時) (レス) id: 5536140bcb (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：小崎相良 | 作成日時：2020年2月23日 10時
