第伍話＿秘密 ページ10
「おはよう、A。驚かせてすまなかったな」
『い、いえ…………あの、貴方は音奴さんで間違いありませんか？』
「おう。まあ、いつかは話さねぇととは思ってたからよ、いい機会だ」
いつもの雰囲気とは違い、声も、佇まいも、動作も男性らしさのにじみ出ている音奴さん。今まで私が接してきた “音奴さん” は彼が猫をかぶっていた姿なのだろうか。
頭をぽりぽりとかいた音奴さんは、こちらを向いて座りなおすと、大きく息を吐いた。
「俺は川上音二郎。訳あって、この置屋で音奴として働いてる。Aが気づいている通り、男だ」
『……はい』
「あーー……何で、と思うだろうが、俺がここで働いていることはあくまで秘密だ。俺が男だってことはこの置屋では女将しか知らねぇ」
『私で2人目、ということですか？』
「あぁ。俺は役者でよ、劇団の主宰を務めてんだ。劇団の運営資金を稼ぐために夜はここで芸者として働いてんだぜ」
『役者さんなんですか？』
「おぅ。この前会った鏡花ちゃん覚えてるか？鏡花ちゃんが戯曲家でさ、台本を書いてもらって俺が演じてんだ」
話せば話すほど彼は男性で、音奴さんの時とはまるで別人だ。双子の兄ですと言われたら信じられそうなほどに。
ひとしきり話した後、川上さんは「隠していて悪かったな……すまねぇ」と言って頭を下げた。
『……驚きました。でもそれと同時に感心もしました。私、1週間も気付かずに過ごしてたんですね』
「……」
『でも、音奴さんのおかげで私はここで過ごせています。戸惑いはありますが、嫌な気持ちは少しもありません。着付けも常識も知らない無一文の私を気にかけて下さったことに変わりはありませんし……寧ろ気を遣わせてしまっていましたよね……』
私が朝目を覚ました時、音奴さんは着替えも化粧も終えた状態だった。それも毎日。私の前で川上さんは “音奴さん” を演じ続けてくれた。大変だったと思う。そこまで気を使ってくれていたことに感謝こそすれ、嫌な気持ちは微塵も浮かんでこなかった。
それから夕方の仕事までの間、“川上さん” とたくさん話した。2人でしっかりと話し合い、私はこの部屋でこれからも過ごすことを決めた。
川上さんは少し照れ臭そうにしていたものの、笑顔で頷いてくれた。
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小崎相良(プロフ) - 閃光のまりあんぬさん» コメントありがとうございます！不定期な更新ですみません(>_<)藤田さんカッコいいですよね！少し不器用な優しさにキュンときます(o´艸`) (2020年2月20日 9時) (
レス) id: b334f4b37a (このIDを非表示/違反報告)
閃光のまりあんぬ - とっても面白いです！！ 更新頑張ってください！ 楽しみにしてます☆ ちなみに私は藤田さんファンです…！ (2020年2月19日 23時) (レス) id: 68c769878e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：小崎相良 | 作成日時：2019年8月13日 19時
