Another:藤田 ページ49
白山三業地に着くと多くの警察官たちが集い、巡回していた。
「この辺りか」
煌びやかな灯りが道を照らし町は妖艶な雰囲気が漂っている。まさに夜の街、という雰囲気だ。艶やかな着物を着た女たちが呼び込みをしたり、客の見送りをしているのが視界に写る。
共に歩いている菱田と泉は、キョロキョロと周りを見回していた。すれ違う女たちが声をかけても目もくれない。その表情は重く、物見遊山に来たわけではないことが見てわかる程だ。一つひとつの建物や道ゆく人を確認するように見廻している。
Aという娘は俺にとって、不思議な存在ではあった。
臆することなく小泉と物の怪の話をしたり、探し人を聞いて回る行動力。俺の知る女とはかけ離れた行動を取る女だった。一見どこにでもいるような平凡な娘の筈だが、接すると違和感を感じる。どこが、と言われてもその原因はわからないが。
「あっ」
「泉？」
歩いている最中、後ろから慌てたような声が漏れた。振り向くと泉が路地の方へとかけていく姿が視界の端に映る。
「待てよ！待てったら！」
何か追っているのか、前方に声をかけながら路地裏へと進んでいく。俺は菱田と共に泉の後を追いかけた。
「……どうした？！」
「泉が急に駆け出したんだ」
隣を走る菱田も何がなんだかわからない様子だった。
「泉！どこへ行く？！」
「俺が知るかよ！あの子が急に走り出したんだ！」
泉は表通りからどんどん離れ、薄暗い路地を進んでいく。
魂依である泉の目には何かが見えているのだろう。その姿は俺と菱田の目には映らない。
泉が振り返ることはなかった。前方に声を何度もかけながら走っている。
「待てってば！いったい何があるん……だ、よ」
何本か角を曲がったところで泉は動きを止めた。
煌びやかな表の風景から一転、目の前にあったのは薄暗い古い建物だった。生垣があることで家だとはわかるが、無ければ小屋と間違えてしまいそうなほどに薄暗い。敷地の外で足を止めた泉はその建物を見つめている。
「家……？」
ポツリとそう呟くと、そのまま家の敷地の中へと進んでいく泉。そして玄関の前でピタリと止まり、しゃがみ込む。地面にある何かをそっと拾うと、今度はこちらに振り向く。
その手元には白が見える。
距離があって何を持っているのかすぐにはわからなかった。嫌な予感がして、冷や汗が背中を伝い、悪寒が走る。
泉が持っていたのは
見覚えのある折れた玉簪だった。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 88人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
小崎相良(プロフ) - 閃光のまりあんぬさん» コメントありがとうございます！不定期な更新ですみません(>_<)藤田さんカッコいいですよね！少し不器用な優しさにキュンときます(o´艸`) (2020年2月20日 9時) (
レス) id: b334f4b37a (このIDを非表示/違反報告)
閃光のまりあんぬ - とっても面白いです！！ 更新頑張ってください！ 楽しみにしてます☆ ちなみに私は藤田さんファンです…！ (2020年2月19日 23時) (レス) id: 68c769878e (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：小崎相良 | 作成日時：2019年8月13日 19時
