第伍話＿新月 ページ7
その日はいつもと違った。
公園の雰囲気に違和感を感じる。
今までは私が先に公園にいたのに、この日は先にナイルさんがいた。
彼は公園のブランコをゆらり、ゆらりとこいでいた。
月の無い空を見つめていたナイルさんは、私に気がつくといつもの笑顔でにっこりと笑う。
「やあ、Aちゃん」
『こんばんは、ナイルさん』
「今日は元気そうだねぇ……」
「まぁ、以前よりかは？ですね……」
ナイルさんはコテンと首をかしげる。目が「どういうこと？」と言いたげだ。目に見えて疲れている様子が見られないからだろう。私自身体に不調はない。
彼と初めて会った時よりかは体調も良いし、スッキリしている。けれど、まだ “両親がいなくなったこと” が受け入れられない。
いや、ちがう。
受け入れてはいるが、虚空間が埋められていないのだ。心が満たされず、虚しい。
「Aちゃんはまだ辛いの？」
『辛くはないです……ただ、ちがう未来の私もいたのかな、とか悪い方にばっかり考えてしまって。なんだか気持ちが落ち込み気味なんですよね……』
「ふうん」
『もっと違う人生もあったのかなって』
「違う人生？」
『……はい。現実逃避なのはわかってるんですけどね』
世の中には“パラレルワールド” という概念がある。
違う選択をした未来、もしもの世界。
…………両親が死なない世界。
ナイルさんは目をパチパチと瞬く。
そしていつものニコニコした笑顔ではなく、にやっと怪しく笑った。
その笑みを見て背筋に悪寒が走る。
何故かはわからない。背中に冷や汗が伝う。
先ほどまでは感じていなかった嫌な雰囲気をひしひしと感じた。
『？！』
「違う人生ね、ウン、いいんじゃない？面白いと思うよ！気に入った。幸いなことに今日は新月だ。君の望み、叶えてあげる」
『え』
「僕は気まぐれだからね、滅多にないよ。Aちゃん幸運だったね！」
この人が何を言っているのか理解できない。
“望みを叶える” その方法は２つしかないし、そのどちらも到底叶えられるものではない。
理解が、出来なかった。
瞬時に頭の中は疑問符で埋め尽くされる。それを知ってか知らずか、ナイルさんはさらに笑みを深めた。
『え、あの』
「ふふ、おやすみぃ」
ニタッっと笑ったナイルさんが指をパチンと鳴らす。
その音を聞いた途端、私は抗うことのできない強烈な眠気に襲われ、私は意識を手放した。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 105人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
小崎相良(プロフ) - あららさん» コメントありがとうございます！私も芽衣ちゃん好きです！こちらこそ、これからも宜しくお願いします！ (2019年6月30日 20時) (
レス) id: bb37bfea9e (このIDを非表示/違反報告)
あらら - めちゃくちゃ面白いです！めいちゃん好きなんで話に出てきて嬉しいです！これからも更新を楽しみに待ってます！ (2019年6月29日 23時) (レス) id: 3866ce7f97 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：小崎相良 | 作成日時：2019年6月15日 0時
