第卌参話_体調 ページ47
鴎外さんはかがんで私に目線を合わせた。そして額、首回りに触れ、「少し暖かいかな」とこぼす。
……これは診察されている?
そういえば、森鴎外って医者の心得もあるんだっけ?そんなことを習ったような……違ったかな?
「では、口を開けてごらん?」
言われた通りに口を開けるとじっと中を覗き込む鴎外さん。診察されている。
岩崎さんの双眸はその様子を見守っているようで。まるで、母親と病院に来た子供の気分だ。
「ふむ。しっかり測っていないからわからないけれど、熱が高そうだね」
『え』
「咳や鼻水は?」
『ありません……』
「痛い所や気分の悪さはどうだい?」
『特には……』
「ふむ。僕の所見としては “発熱” だね。病原菌等からの風邪による発熱ではなくて、ストレスや環境の変化による疲れからのものだ。見た所、他の症状は何もなさそうだから、食事と睡眠をしっかりとることをおすすめするよ」
「すみません、森さん。ありがとうございます」
ぽかんとしている私に変わり岩崎さんが頭を下げている。私も慌てて頭を下げた。
森さんが部屋を出ると、岩崎さんはこちらに向き直る。
そしてにこりと笑う。
「Aさんも今日はお終いにしましょう」
『え、でも、まだお時間ありますし……』
「貴方の体の方が大切でしょう?」
岩崎さんの言葉は最もだ。それは理解できる。しかし、時間分の花代を頂くのだから早く切り上げるなどとんでもない。私は慌ててかぶりを振る。
『花代を頂くのに出来ません』
「熱の状態で働く程、非効率なこともありませんよ。判断だって鈍るでしょう」
『でも……』
「分かりました。では、私に膝枕をさせて下さい」
『……え?』
膝枕?させて下さいということは、岩崎さんの膝に寝転べということだ。
いくら体調不良だからと言ってそれをするわけにはいかない。彼はお客さんで、私は従業員である。
『それは出来ません!』
「私がしたいんです」
『でも、旦那様にそんなこと……』
「その客がやりたいと望んでいますが?」
『えぇ……でも……』
「いいんです。客である私からの要望ですから。ご心配でしたら女将にも口添えしておきます」
そういう問題ではない。働いている最中に寝転がることに抵抗があるだけなのだが。
そのまま数分。どうやら岩崎さんに譲る気は無いらしく、一歩も引いてくれない。
結局こちらが折れて、横になることにしたのだった。
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小崎相良(プロフ) - あららさん» コメントありがとうございます!私も芽衣ちゃん好きです!こちらこそ、これからも宜しくお願いします! (2019年6月30日 20時) (レス) id: bb37bfea9e (このIDを非表示/違反報告)
あらら - めちゃくちゃ面白いです!めいちゃん好きなんで話に出てきて嬉しいです!これからも更新を楽しみに待ってます! (2019年6月29日 23時) (レス) id: 3866ce7f97 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:小崎相良 | 作成日時:2019年6月15日 0時