第85話 ページ38
桜乃side
「え？」
「俺と居ると今日みたいなことがあるかもしれない。桜乃ちゃんに怖い思いをさせて、泣かせるかもしれない」
掠れた声でAさんは「それは、嫌なんだ」と言った。
吹きつける夜風が、やけに冷たく感じる。
私の髪を揺らして、私を見ずにいるAさんの髪も汚れたシャツも揺らしていた。
ドクドクと、私の鼓動だけが響いているような気がして、口に中が乾いて仕方ない。
Aさんは、今、なんて言ったの？
「桜乃ちゃんは俺なんかじゃなく、君にテニスを教えたリョーマって奴と幸せになった方が______ 」
「嫌」
声が出た。
考えるよりも先に、素直に。
「絶対、嫌です」
そうですね、別れましょう。そう言ってしまった方がいいって、頭では分かってはいるの。
多分、このままAさんの側に居ると、今日みたいなこと起こってしまうのは簡単に想像ができるし。
……もしかしたら、今日よりも怖い目に遭うなんてこともあるかもしれない。
でも、それでも。
自分の気持ちに素直になればなるほど、私はAさんのことが好きと気付いてしまう。
一時の気の迷いかもしれない、とか。
いつになく弱気な彼への同情かもしれない、とか。
そんな馬鹿みたいな考えも生まれてくるけれど。
Aさんは、出会った時から王子様みたいに素敵な人で、怖い人から助けてくれて話を聞いてくれて、守ると約束してくれた。
何かあったらすぐに駆け付けてくれて、励ましてくれて。
テニスだって、呆れずに教えてくれた。
弱い部分だって見せてくれたの。
私を大事にしてくれて、優しくて、こんなにも格好良い人を好きにならないわけがない。
例えそれが、どんなに恐ろしくて危ない人だったとしても。
「私にとっての王子様は、Aさんだから……。テニスを始めたきっかけはリョーマくんだったとしても、そこからもっと好きになれたのはAさんのおかげだから」
私は感情に任せてAさんに抱きついた。
汗と、血の匂い。
……怖い、けどこの人の側は安心する。
矛盾した感情に、きっとこれは『好きだからこその不安』なんだと言い聞かせる。
「これを逃すと、離してやれない」
「Aさん以上の人なんていないから」
いいんです。
自分自身に言い聞かせるよう、そう呟いた。
背中に伝う冷たさなんて知らない。
胸の騒めきも、囚われたかのような感覚も、知らない。
Aさんは、私の王子様。
怖がる必要なんて無いはずなの。
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バンビ(プロフ) - 真理さん» 現在更新のペースがかなりゆっくりになってしまっていますが、時間を見つけて更新をしていきますので、今後ともよろしくお願い致します。 (1月25日 23時) (
レス) id: ff777945fb (このIDを非表示/違反報告)
真理 - バンビさん» 続きまだですか？ (1月24日 7時) (レス) id: e1f8464f5a (このIDを非表示/違反報告)
バンビ(プロフ) - リコさん» ありがとうございます。今後も楽しみにして頂ける様に更新していきます。 (2021年7月18日 11時) (レス) id: ff777945fb (このIDを非表示/違反報告)
リコ(プロフ) - 続きを楽しみにしてます！ (2021年5月9日 6時) (レス) id: 8b5e530447 (このIDを非表示/違反報告)
バンビ(プロフ) - 紗衣さん» ありがとうございます。非常にゆっくりな更新になっていますが、楽しみにして頂ける様に頑張ります。 (2021年4月10日 0時) (レス) id: ff777945fb (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：バンビ | 作成日時：2020年9月4日 12時
