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第79話 ページ32

桜乃side




Aさんの、聞いたこともない怒鳴り声が聞こえた。ビリビリと鼓膜に刺さるかのような怒号は、姿が見えなくても怒っているのが良く分かる。

思わず、顔を声の方へと向けた。
姿はまだ見えないけれど、Aさんが来てくれたことに、思わず眉が下がって涙が出そうで。

私、Aさんが来てくれたことで安心したんだって。さっきまでの恐怖だとか悲しみだとか、そんな気持ちが消えて嬉しいんだって、私は小さく笑っていた。


「……A、さん」


隣に座っている南か呼ばれていたその人は、Aさんの怒鳴り声を聞いて、吸っていた煙草を捨てて笑みを浮かべながら立ち上がる。

そして、ゆっくりと見えてきたAさんを見て、私は笑みを消した。


「ほら。やっぱりな。東は変わってない」



……あの人は、だぁれ?


靴音を鳴らしながらゆっくりと見えてきた彼はまるで、知らない人。

黒い髪は乱れていていつもの優しい王子様のような雰囲気はない。眉間に皺を寄せていて釣り上がった眉と鋭い目付きはまるで獣のよう。
ギラつく黒い瞳で周囲を睨む姿に、思わず背筋が冷えた。


見たこともない。
想像もつかない。

私の知らないAさんが、視線の先にいた。




「待ちくたびれたよ。東」

「……南か?」


知り合い、だろうか。
Aさんは私の隣に立つその人の名字を口にして、笑った。

それは、私に見せてくれた優しい笑顔じゃない。
楽しそうに笑っていた時とも、嬉しそうに笑っていた時とも違う。


「懲りねぇな、お前。また病院に送ってやるよ」


見たこともないくらいの、嘲笑(ちょうしょう)だった。

人を、馬鹿にした……怖い笑顔。
それが私に向けられた訳ではないのに、肩が震えた。


「……桜乃ちゃんに、手を出してねぇよな?」

「ああ。勿論まだ、ね」

「は?」


彼の目が私を捉える。
ギラつく、まるで刃物のような鋭い目が私にも向けられて。
私の震え続ける肩を見たからか、隣から「そんな目を向けるなよ。怖がるだろ?」と芝居が掛かった柔らかい声がする。


「お前に向けてんだ」

「へぇ?」


そんな言葉と共に、その人は私の腕を引っ張って無理矢理立たせた。
そして徐に私の髪を引っ張り、綺麗な顔を近づけてきて、視界はそれで埋められて。髪を引っ張られる痛みと、急に近付いた顔に「きゃあっ!?」と驚くくらい大きな声が出た。



そして、互いの息が掛かるくらい近付いた時、その人はニヤリと笑ったのだ。

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バンビ(プロフ) - 真理さん» 現在更新のペースがかなりゆっくりになってしまっていますが、時間を見つけて更新をしていきますので、今後ともよろしくお願い致します。 (1月25日 23時) (レス) id: ff777945fb (このIDを非表示/違反報告)
真理 - バンビさん» 続きまだですか? (1月24日 7時) (レス) id: e1f8464f5a (このIDを非表示/違反報告)
バンビ(プロフ) - リコさん» ありがとうございます。今後も楽しみにして頂ける様に更新していきます。 (2021年7月18日 11時) (レス) id: ff777945fb (このIDを非表示/違反報告)
リコ(プロフ) - 続きを楽しみにしてます! (2021年5月9日 6時) (レス) id: 8b5e530447 (このIDを非表示/違反報告)
バンビ(プロフ) - 紗衣さん» ありがとうございます。非常にゆっくりな更新になっていますが、楽しみにして頂ける様に頑張ります。 (2021年4月10日 0時) (レス) id: ff777945fb (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:バンビ | 作成日時:2020年9月4日 12時

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