君とわたしのtoccata(トッカータ) (ページ6)

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第3話ページ6

Aside

「損失って例えば？」

『そうだね、アイドルがアイドル活動しないとか。あとはヒロインが立場奪われて生まれるはずの名曲が出ないとか』

「確かにそんな事が起これば、実質ストーリーが破綻するものね」

考えるのをやめた。
理解出来ない事を深く考えると頭痛がしてくるし、一線引いて考えればいい。

『とりあえずそれが起こらないように頑張ってくれればいいんだ』

「それよりも、どうしてそんな世界を破壊する存在を自分で排除しないわけ？」

『同期がその世界の管轄域なんだけど、馬鹿なボクの部下が自分の世界で一人間違えて命を奪ってしまって、お詫びとして好きな世界に転生させるって……。
上司の世界に転生させたのはいいけど未来の損失が凄いことになって、部下の尻拭いでボクが……』

哀愁を漂わせ淡々と言う姿はとても疲れている。

遠い目で花畑の地平線を見つめる姿は悲壮感があるように見えた。苦労人なのか。

『神であるボクは介入出来ないから、同僚に許可取ってボクの使いとして君に行ってもらいたいんだ。
勿論、報酬もあるよ。
君が成功させたらなんでもひとつ願いを叶える』

「……、なんでもって？」

『君の生まれを変えられるよ。八乙女楽との異母兄妹ではなく、赤の他人として。

禁断の恋と諦めたそれをボクなら叶えられる。

やってくれるよね。夜久 A』

そう言うピエロから差し出された手を、わたしは無言で取った。

『ボクから君へ。

その世界の原作を教えてあげる。ルートは沢山あるからそのうち一つをどんな形でも辿れればいい。
期限は、一年以内。それ以上は君を留めていられないよ』

ピエロはわたしの額を小突く。
瞬間、様々な情景がわたしの脳裏を過ぎる。

情報量の多さに目眩がした瞬間だった。

『いってらっしゃい。幸運を祈る』

◇◇◇

気がつけば、わたしはソファーに座っていた。

場所は自分の部屋で、目の前のテーブルにはまだ淹れたばかりの紅茶が湯気だっている。

手には一枚の紙切れがあり、早乙女学園Sクラス合格の文字とわたしの名前。

目の前のハンガーには、早乙女学園の制服と思われる派手な制服が掛けられている。
あれが全て現実だとわかり、わたしは額を押さえながら溜め息を吐いた。

今後の生活について考えれば考える程頭が痛くなる。

「でも、本当に異母兄妹じゃなくなるなら」

ぽつりと呟いた言葉は誰にも聞かれる事なく消えていった。