男前女芸人_その2 (ページ38)

今日:3 hit、昨日:13 hit、合計:11,218 hit

誰にもページ38

・

『…け、健人？貴郁？…大村くん？おるんやろ？』

想定してなかった言葉に反射的に足が止まる。
…もしかして、バレた？いや、まだ俺の姿もみてないし。

とりあえず、早めにやってしまおう。

出来るだけ早めに、けど途中でバレても良いように不規則に歩く。

音が一気に止んで電気が付き、ゆっくり顔を上げると驚いた顔をしてこちらを振り向くAさん。

手に持った血糊付きのハサミを掲げると一気に血の気が引いた。
なかなか見ないAさんの怯えた顔に、ぞわ、と一瞬鳥肌が立った。

…Aさんも、こんな顔するんやなぁ。
なんて少しの優越感に浸りながらゆっくり近づいていく。

グッ、と手を引き、体勢を崩させて床に倒す。
立て続けに俺も倒れて覆いかぶさると、びく、と体を強張らせて。けど怯えながらも俺の目をまっすぐに見た。

綺麗だなぁ、とどこかぼんやり思った。

今なら、言ってもいいのかな、なんて。

山田「…Aさん、………き」

誰にも聞こえないほどの声量で。俺自身も聞き取れないくらいの小さな声で。

『…え、なんて！？？？？』

聞き返されるのは予測済み。だから、誤魔化すようにハサミを振りかぶった。

_____「カット！！！」