[d!]紫煙の感覚を知っている。 (ページ12)

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「…困ったな」

いや、正確に言うと別に困ってはいないのだ。嬉しいっちゃ、嬉しい。
けど、ここまでとは思ってなかったなぁっていう。

「…しょぴく、どしたの？」
「何でも無いっすよ」

何かと様々な人に絡まれて疲れてきた俺は、上司や同僚から逃げA先輩の隣に座った。
元々隣に居た人？さあ、知りませんけど。

俺より大分小柄なA先輩は、とても可愛らしい。
一口がちっちゃくって、ころころと表情を変えて、花が咲いたように笑うのだ。
ブラックコーヒーが好きだったり甘いものがそこまで得意じゃ無いところは、まあ意外だった。
今まで出会ってきた女達は、ブラックコーヒーなんて飲まなかった。…いや、別に彼女以外は飲んでたのか？友達として付き合っていた奴は普通に飲んでいたかもしれない。興味なくて覚えていないが。
そんな先輩は仕事ができて、人を気遣って、そして無理をする。
俺としては、目の離せない先輩、と言うか…なんで後輩の俺が面倒見てる感じなんやろ。
でも、A先輩は中々の阿呆な気がする。
コードによく足を引っ掛けるし、たまに壁にぶつかるし、時々迷子になってるし、ゴミ箱にぶつかってるし。
…そんなとこもかわええなぁとか思っている俺は重症なのかもしれない。

そんなかわええ先輩と密着している。緊張しない筈がない。
確かに先輩の隣に座ったのも、若干邪な気持ちがある。若干どころではないが。

「……ちっちゃぁ」

お酒に弱いらしいA先輩。
元々隣に居た人に聞くと、まだ一杯しか飲んでいないらしい。普通のコップ、一杯分らしい。
…そりゃあ、飲み会に行きたい訳が無いだろう。上司に絡まれるし碌に楽しめないのだから。

「しょぴくんは…楽し？」

呂律が回っていない先輩は、こてんと首を傾げながら言った。
……かわいい。
あかん、俺も酔っているのかもしれない。まあAさんに酔っている自覚はある。
…何考えてんやろ俺。

「まあ…そこそこに」
「そっかぁ」

そう返事した先輩はにこっと笑う。

「よかった」
「…ほん、ま……はぁ」

ずるい。
先輩が俺のことを気にして、心配して、褒めてくれる。それに恋愛感情は入っていないだろうに、それを俺は期待してしまうのだ。
ぐずぐずと、上がれない沼に入っている感じがするのに嫌じゃない。
溺れる、ってこういうことなんかなぁ。なんて考えながら、酒を飲んだ。