○ 泣き虫 ページ8
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「俺はお前に動き回ってほしくねえだけだよい」
「邪魔だから？」
「心配だからに決まってんだろい」
「心配してくれてるんだ」
「そりゃあ、お前の心配ぐらいするよい」
「へー？」
「お前なあ……流産してえのか？」
「まさか」
少し怖い顔で脅すように聞いたら、一瞬驚いたように目を見開いて、ふるふると首を振る。
本当は、どっちの子かわからないまま産むより、自然に無かったことにできたほうがいいと、Aが考えていても不思議はない。
たとえ産まれてこないことを願っていたとしても、俺はそれを責めたりしないのに。
「……でも私、私、前に一度流産してるの」
「は？いつ？」
「ハタチすぎくらい」
「もうモビーにいる頃じゃねえか。でも俺知らねえよい」
「言わなかったの、ナースに処置してもらったから」
「なんで言わねえ？」
「マルコ、その時遊びまくってたから」
「はあ？そうだったかねい……」
「まあ、妊娠発覚してすぐ、ダメんなっちゃったから」
「ダメんなった？」
「生理こなくておかしいな？と思って検査してもらったら、ご懐妊ですけどもうお腹の中で死んでますね、って」
「ふーん。体質か？」
「さあ？」
「やっぱ安静にしてねえからじゃねえのかい」
「そうかも。でもよかったの。その時からもう、サッチは子供欲しいなんて言わなかったし」
「お前は、ほしくなかったのかい」
「どっちでも、よかった」
「そうかい」
「サッチがいてくれるなら、子供なんていらなかったの」
サッチが死んでから、Aは泣き虫だ。
サッチが死ぬまで、俺はAの泣き顔なんてほんの数回しか見たことがなかった。それも、モビーに乗ってすぐのガキの頃だ。きっと、サッチの前ではちゃんと泣いてたんだろうけど。
まだたたまれていないタオルの山を放置して、俺は泣き出したAの背中をさすっていた。
白ひげ海賊団が解散してからスタートした二人きりの生活は、大変なこともあったが基本的に楽しいものだ。
黒ひげと名乗ったアイツが時折ちょっかいをかけてくるのは酷くストレスだったが、このまま海賊を辞めてしまってもいいと思うくらい、穏やかな日々だ。
Aのお腹にいる子が別にどっちの子でも、
もし産まれなくても、
Aと二人で生きていってもいいと考えるのは、
やっぱりサッチに悪いだろうか。
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作者名：ライ | 作成日時：2021年11月17日 13時
