○ 心配 ページ7
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マルコは意外といいお父さんになるかもね、とAが言ったのは、いくらかお腹が大きくなって、普段着ている服が入らなくなった頃だった。
その時俺は長くなったAの髪を結っていただけで、別に子育て準備をしていたわけではない。
若い頃から子どもは好きじゃなかったし、いまはもう誰かと結婚する予定もなかったから、いい父親になるなんて考えられなかった。
うまく返事が出てこない俺が、怒ったと思ったのか、Aは慌てて謝った。
「ごめんね」
「何が？」
「いまの、良くない発言だったかなと思って」
「そうか？」
「マルコの子じゃないのに」
「ああ、そんなことかい」
「でも自分の子じゃないのに育てようってのも、かなりいいお父さんな気がしたから、言っちゃったの」
「別に気にしてないよい」
「そう？」
Aの頬を撫でて頷くと、綺麗に結われた髪をそっと触って、ありがとうと微笑んだ。
さっき取り込んだ洗濯物をたたみはじめた俺の隣に擦り寄ってきて、一緒にたたもうとする細い手を制止する。Aは、何もしなくていい。
「マルコって優しいね」
「……Aは放っておくとすぐ家事するからねい」
「だって暇だから」
「妊婦が暇だからって下手に動き回るなよい」
「何もしてない時間が耐えられないよー」
「寝転んでずっと俺に喋りかけとけばいいよい」
「動かしていいのは口だけってこと？」
「そうだよい」
「えー！やだ！料理したいよ〜」
「味わかんねえのにか？」
黙ってしまったAの顔を覗き込んで、今のはさすがに良くなかったかなと思う。
味覚を失っても、彼女はコックだ。
サッチと同じコックであることを、きっと誇りに思ってさえいるだろう。
味がわからないのが本当だとしても、言うべきじゃなかった。おまけに、あの日から味がわからなくなってしまった彼女の作る料理が、それでも俺は好きだったのだから。
俺のシャツをぎゅっと握って寂しそうな顔をするAを、そっと引き寄せて抱きしめた。
「悪かったよい」
「いいよ、ほんとのことだし」
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作者名：ライ | 作成日時：2021年11月17日 13時
