○ 事件の記憶 ページ3
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サッチを殺した後で、悪魔の実を奪ったティーチは、ちょうど運悪く部屋に入ってきたAを、その場で犯 した。
エースと一緒にサッチの部屋に駆けつけた時はもう遅く、口にはサッチのスカーフが詰められ、左肩をナイフで刺されたAが、ほとんど全裸に近い格好を気にせず、既に息絶えているサッチの手をキツく握りしめていた。
エースはショックで腰を抜かし、俺はすぐに部屋のドアに鍵をかけ、自分のシャツを彼女にかけてやった。
その時交わした会話は、きっとこれから先の人生で、決して忘れることはないだろう。
「A、」
「マルコ……」
「お前」
「私は大丈夫なんだけど、サッチ、もう息してないの」
自力で口からスカーフを吐き出して、そう言った。
自分が傷つけられたことより、愛する人の死を悲しんでいるようだった。
俺は何も言葉が出なくて、血に塗れて震えるAの手と、まだほんのりとあたたかいサッチの手を、まとめて包んだ。
「好きだよ、サッチ」
紫になって血が滲む唇が呟く声が、サッチの鼓膜を揺らしても、聞いているのは俺だけだ。
Aの手は冷たくて、でもサッチの方が、死人の手だと分かってしまって、医者のくせに何もできなかったことが情けなくて、涙が一粒、転げ出た。
腰を抜かしたままだったエースがゆっくりと立ち上がる音で、やっと俺も動けるようになる。
彼女の肩に刺さったナイフは貫通しており、船の床に深く突き刺さっていた。これのせいで、ティーチに乱暴されていても逃げられなかったのだろう。
「ごめんな、A」
「サッチ、愛してるの、サッチ、いかないでよ」
Aは涙を流さなかったが、サッチの名前を呼ぶその声は泣いていた。
サッチの手を離したがらないAを、どうにか説得したのは俺だった。
左肩の処置をしたのも、風呂に入れてやったのも、あの日あの部屋で何が起こったのか聞いたのも、全部俺だった。
彼女が泣いたのも、俺の胸の中だけだった。
この船には女が少ない。ナースの女と一緒にいるとサッチのこと思い出してダメだから、と言って、俺のそばにいたがった彼女を、俺が拒めるはずもなかった。
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作者名：ライ | 作成日時：2021年11月17日 13時
