○ 幸せの形 ページ16
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「サッチと一緒に4番隊に入りたくてコックになったの」
「それまでは俺んとこだったねい」
「そうそう。サッチだって忙しいはずなのに、毎日仕事終わってから私に料理を教えてくれて」
「お前ら夜中までうるさかったんだよい」
「それで二人してマルコに怒られるの」
「そりゃ夜中の2時までやってりゃ誰だって怒るよい」
「でもマルコのうるせえよい！の声がいちばん響いてさ」
「その声で誰か起きてきたんだったかい」
「えー誰だっけ？」
「イゾウだったか？」
「あ、イゾウ！」
「小声で嫌味言われたんだったねい」
「そうそう、あの時はホント、楽しかったなあ」
嬉しそうに笑って、Aはコーヒーを口に含む。二つのトレーの上のパンは、どちらも食べ終わっていた。残ったのは少しのコーヒーと、ジャムだけ。
こんな他愛ない思い出話をしている時間が、いちはん幸せだと思った。
「マルコ、眠い？」
「ああ、結構疲れがたまったかもしれねえよい」
「じゃあ少し寝る？」
「そうしようかねい」
「私もそばにいていい？」
「……もちろんだよい」
噛み殺した欠伸を見逃してくれない。帰る前に近くの宿でシャワーを浴びてきたから、Aの美味しい料理で腹を満たした今、このまま眠れそうだった。
トレーをキッチンに持って行ってから、寝室に行く。二つ、間隔を空けて並んだベッドの、シーツが綺麗に整っている方が俺のベッドだ。
俺がいない間にもAが綺麗にしていてくれたのだと思うと、いじらしくて嬉しくなる。
「ねえ、マルコ」
「うん？」
「ごめんね」
「……なんについての謝罪だい？」
俺が自分のベッドに座っても、Aは突っ立ったままで何も言わない。
こっちが謝ることはあっても、Aから謝られることなんて何もないはずだし、もし何か隠し事をしているとして、それに対してのごめんねだったとしても、俺はいいよいとしか返さないんだけど。
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作者名：ライ | 作成日時：2021年11月17日 13時
