○ いちごジャムの思い出 ページ15
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「サッチが好きだったなあと思って」
「サッチが？」
「うん」
「そうだったか？」
「サッチ、いちごジャムよく作ってたもん」
「それはお前が好きだからだろい」
「え？」
「お前、パンにつけるならいちごジャムがいいって、最初の頃は駄々こねてたからねい」
「うそ！そんなことおぼえてないよ？」
「本当に船に乗ってすぐの頃だよい」
「え〜ほんと？」
「ああ。その日はフレンチトーストだったんだが、
バターと蜂蜜とブルーベリージャムしか揃えてなくて、
お前が泣いたんだよい。いちごジャムが合うのにって。
それでサッチが慌てて作って。
それからバゲットでもロールパンでもクロワッサンでも、
お前はいつもいちごジャムがいいって言っててねい。
サッチはいつもお前のために作ってたよい」
「そんなの、知らない」
「まあ覚えてなくても無理ねえよい」
「小さい頃でしょ？」
「ああ。急にぱたっと言わなくなったんだっけねい」
「なんで？」
「さあ……」
「でもそれからもいちごジャム、作ってたよね？」
「お前がまたいちごジャムじゃないといやって言い出したら困るからだろい」
「えー？そのため？」
「サッチはAが好きだったからな」
「それは、知ってるけどさ」
はい、と差し出されたトレーには、ほかほかのパンとミルクたっぷりのコーヒー、そして出来立て艶々のジャム。
木でできた小さなダイニングテーブルまで運んで、向かい合って座った。Aのトレーには、二人で分け合う予定の新鮮なサラダものっている。
いただきます、と両手を合わせるAにうながされて、俺も両手を合わせる。久しぶりのまともな食事だ。
「いちごジャム、すっごい時間かかったの」
「へえ。どれくらい？」
「んー、丸一日くらい？」
「そりゃ大変だねい」
「サッチはもっと手際良くできるだろうけどね」
「一緒に作ったことはなかったのかい？」
「それがないんだよね、なんでかな」
「さあな」
「ねえ、私がはじめてサッチと一緒に作ったの、なんだか知ってる？」
「知ってるよい。じゃがいものパイユ」
「正解！すごいね」
「そりゃサッチに何度も聞かされたからねい」
「そうなの？」
「ああ。じゃがいもを剥くのも切るのも、包丁さばきがあぶなっかしくて見てらんなかったって笑ってたよい」
「はじめてだもん。そんなものでしょ？」
「まあな」
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作者名：ライ | 作成日時：2021年11月17日 13時
