○ 敗戦 ページ14
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落とし前戦争_____後にそう呼ばれることになる戦争から負けて帰ってきた俺を、Aは責めなかった。
勝手にAを置いて戦争を始めたのに、勝手に負けて帰ってきた俺を、まったく責めようとはしなかった。
謝ろうとする俺の口を両手で押さえて、おかえりと笑ってくれた。その笑顔に、クマはない。泣いた痕も、見当たらない。俺が家をあけた数日も、よく眠れているらしいのが嬉しくて、安心して、めいっぱい背伸びしたAの体を強く抱きしめる。
「おかえりー、マルコ」
「ああ、ただいま」
「みんな元気だった？」
「……ああ」
「そう。私に会いたいって言ってなかった？」
「みんな、……そう言ってたよい」
「えーほんと？」
「本当、本当」
「じゃあ私もいけばよかったかな？」
「んなわけねえだろい！」
「ジョーダンだよ、マルコ。行かなくてよかった」
「お前なあ……冗談に聞こえねえよい」
「ごめんごめん、私も会いたいのはほんとだから」
「そうかい」
「怒った？」
「いや。やっぱり行かなくてよかったと思うよい」
「そう？なら、それでいいや」
やっと戻ったAの笑顔を、また失いたくなかった。いくら白ひげ海賊団のみんなに会いたいからといって、俺はそれよりずっと、ティーチに会わせたくない気持ちの方が大きかった。
向こうが放っておいてくれないから、仕方なく起こした戦争だ。勝てるとは、最初から思えなかった。ただ一泡吹かせてやりたかったし、このまま侵略を許すこともできず、苦肉の策で起こした戦争だった。
結果はもう、どうしようもない。
ただこれ以上、Aの大切なものを奪われたくはない。
「昨日ね、いちごをもらったから、ジャムをつくったの」
キッチンに入っていくAの小さな背中を追いかける。カチッとコンロに火をつけて、鍋をかき回し始めたら、いちごの甘い香りが漂ってきた。既にパンが並べられていたオーブンも動かして、お揃いのマグカップにコーヒーを注ぐ。
Aの無駄のない動きに、海賊船のコックをやっていた面影を見て、こんな狭くて器具の少ないキッチンを与えているのが申し訳なくなる。
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作者名：ライ | 作成日時：2021年11月17日 13時
