○ 昔話 ページ12
.
「サッチとマルコって、いつも喧嘩してたよね」
「そうか？」
「うん。次の島で行きたいところだとか、見張り番とか、食堂の席とか、そんな些細なことばっか」
「はは、よく覚えてるねい」
「毎回私の目の前で喧嘩するんだもん」
「サッチはお前が好きだったから」
「私鈍感だった？」
「ああ」
空になった皿を片付けたAが、サッチとAと俺と、三人仲良く並んだ写真を見ながら、楽しそうに笑う。
Aが鈍感だったのは、サッチだけでなく俺からも好かれていたことに、結局いまもまったく気がついていないことからも明白だった。
「よくさ、三人で島を探索したよね。
行きたいところが違うなら別行動すればいいのさ、
二人とも喧嘩しながら一緒にいて、
結局みんなでご飯食べて、雑貨みたり服買ったり、
本屋に連れ回されたり、
私にプレゼント買ってくれたりして、
それで夜はモビーに戻るかどうかでまた揉めて、
ホテル泊まるって決まっても部屋割りでまた揉めたもん。
で、結局私の意見に二人が折れてくれて、
ダブルベッドで狭いって言いながら三人で並んで寝るの。
島に着くたびにそんなんで、
それなのにマルコが偵察でいない時は
サッチもちょっとつまんなそうでさ。
その時から私のこと好きだったらしいのに、
二人きりなのが嬉しいとかじゃなかったって言ってたよ。
三人でいるのがとにかく楽しくて、
マルコだけが忙しいのは寂しくて。
二人が本気で喧嘩してないってわかるから、
私のために争わないで〜なんて茶番して、
狭くっても二人に囲まれて寝るのが一番安心したの。
あの頃は、ホントに楽しかったなあ。
毎回毎回、次の島に着くのがすっごく楽しみで、
船の中でもサッチと一緒に新メニュー考えるの楽しくて、
部屋で忙しそうにしてるマルコの邪魔するのも楽しくて、
あ、私最初はマルコのこと好きだったの、知ってた？」
「いや、ぜんぜん知らねえよい」
「そっか。でもほんとは好きじゃなかったのかな」
「ん？」
「ただ、二人といるのがね、本当に好きだったの」
「まあ、俺も、たぶんサッチもそうだったんだろうねい」
「楽しかったね」
「ああ」
「大切な、宝物だよ」
Aの声がだんだん小さくなっていく。震えている。ぱたぱたと涙が落ちて、木のテーブルを黒く染めた。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 61人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ライ | 作成日時：2021年11月17日 13時
