126話 あなたと二人で旅をしましょう ページ3
妹は兄と目を合わせようとする。
もう合うことはないその視線を。
妹は兄のその唇に口付けをする。
冷たくなった、乾ききったその唇に。
ああ、どうしてこうなった。
A『私が、弱いから』
妹は兄の後ろにまわり、優しく兄を抱き締める。
『お兄ちゃん。ああ、お兄ちゃん』
『私はやっぱり、善い人にはなれない』
『当たり前、なりたくない』
『善い人になれば、この兄妹は報われますか』
『旅立ちは、辛いですか』
『ヒソカさん、憎いです。私は折角過去のしがらみが外れかけた筈なのに』
『お兄ちゃん、私がお兄ちゃんに全てを話すことはなかった』
『私の過去なんて聞いて、私がお兄ちゃんの顔を見られないから』
『本当に嫌だった。貴方に拾われたことが』
『あのときあそこで死んでいればって』
『でも、本当に嬉しかった。貴方に拾われたことが』
『なんで私なの』
『なんでお兄ちゃんなの』
『ああ、こうやって私は、やはり怨みと愛しか持てない』
『ねぇ、人間にとっていちばん大きな感情は負の感情らしいよ』
『私の為に作られた皮肉みたい』
『私、いつまで経ってもこのまんま』
『私のまんま』
『夢を見るのは自由なんじゃないんですか』
『その夢すら見させてくれないんですか』
『所詮私はその程度ってことか』
『例え強さがあっても』
『私は弱い』
『お兄ちゃん、笑える?』
『私は笑えるよ』
『だって私には、何もなくたっていいから』
『もともと私にはなにもなかった』
『もとに戻っただけなんだ』
『もとに戻っただけなのに』
『何が違う』
『お兄ちゃん、目、綺麗だね』
『私たち、本当の兄妹じゃないのに同じ色してる』
『なのに、私のは綺麗じゃない』
『お兄ちゃんの飛ばした電波を拾ってくれたのは、誰だったのでしょうか』
『もう一度、私のことを拾ってくれる?』
『道中、最後に見つけた花はアセビでした』
『春が訪れるようです』
『私の電波も、近いうちに探してね』
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作者名:ゴンクラ命の荒川白希 | 作成日時:2023年3月26日 10時