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「気をつけて帰ってね」
「ヌナも危ないからタクシー捕まえてね」
「はいはい、ありがと〜」
デビューしてまだ数年の俺がいくら幼馴染と言えど女性とこんな時間に出歩いているのを撮られたら間違い無く大騒ぎになる。
この時期にメンバー達には迷惑かけたくないし、ヌナは言わずとも分かってくれたみたいでそそくさとタクシーを捕まえに行ってしまった。
“ 子供の時、周りに馴染めずにいたあなたを心配してた。
このまま私としかコミュニティを築かずに大人になったら、って”
ヌナがあんな事を言うのも無理は無い。
練習生になるまでろくに人付き合いをしてこなかったんだから。
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いつもの休み時間、午後の日差しがよく当たる音楽室は俺とヌナだけの空間になっていた。
「ジソンア、どうしたの?」
何であの時ヌナがそう言ったのかは今でもわからない。
俺が話し始めるまで基本的には何も聞かない姿勢のヌナが心配する程、暗い顔をしていたのかもしれない。
ピアノの椅子から降りて俺の顔を覗き込むと、ヌナの長い髪の毛が肩から垂れた。
カーテンみたいな髪の毛の隙間から光が漏れて、ヌナの瞳が透き通って見える。
「別に何も無いよ」
「そう?」
本当はいっぱいあった。
クラスで俺だけが浮いてることも、前までは話してたクラスメイトも今は話しかけてくれないことも。
担任の先生はそんな俺に容赦無くペアグループを強要してくるのが嫌なことも。
ヌナと2人きりになれるこの時間以外は全部嫌だった。
きっとヌナもそれを察していて、それ以上踏み込まない。
だからこの時だけが何も気にせず過ごせる時間だった。
「ジソンイが心配で卒業できないね」
でも時間の経過は残酷で、俺がこの場所でヌナと過ごせば過ごす程そのお別れが近づいてくる。
小学校は6年間だから5歳離れた俺とヌナが同じ空間にいられるけど、中学校高校はそうは行かない。
もう同じ学校で過ごせるのはこの1年が最後だ。
「私がいなくても学校に通うのよ」
「うん、」
この日以降、俺は学校に通わなくなった。
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作者名:ばみ x他1人 | 作成日時:2023年10月25日 5時