［１９］ピアノとメトロノーム ページ30
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もう退院したヌナのお父さんに家に入れてもらって、広いロビーを抜けてヌナの部屋へ一目散に向かう。
「ヌナ…？何してるの、？」
手に包帯が巻かれているヌナは、今まで大切に保管していた楽譜が撒き散らされた部屋で1人ポツンと蹲っていた。
大きいピアノは閉じていて、その上に置かれていたはずのメトロノームも楽譜と同じ様に床に転がっていた。
その惨状がヌナがどれ程ダメージを負っていたのか物語っている。
「ヌナ、ヌナぁ…」
まるで荊棘を掻き分けて進むみたいに足がなかなか動かなくて、ヌナを呼ぶことしかできない俺は本当に情けなかったと思う。
「私がお母さんを殺したんだって」
「え…？」
「…私のピアノが、お母さんを奪ったんだって」
「何言ってるの、そんな筈…」
「お父さんだってそう思ってる。
私のピアノなんか聞きたくないって」
ヌナは強くなんかない。
俺に見せてこなかっただけで本当は傷付いてるし苦しんでる。
俺がヌナの家に来なかったのは、ただ何て声を掛けていいかわからなかった自分への言い訳で。
ヌナは強くないってわかっていたのに。
ヌナの絞り出した小さい声を聞いて、弾かれた様にヌナのもとへと手を伸ばした。
「……1人にしてごめん…
ぬな、またピアノを弾いてよ……、」
「…ピアノなんか、もう弾きたくないよ」
「やだよ、そんな事言わないで…、」
「ピアノなんか弾いたって……誰も幸せにならないじゃない」
「俺がヌナのピアノを聞きたいんだよ…
ヌナのピアノを聞いて救われたんだ、学校が楽しいって思えたんだよ、」
巻かれた包帯に血が滲むくらい強く握りしめたヌナの手を開いて、手を繋いだ。
その日は2人で大泣きして、そのままヌナの部屋で手を繋いだまま朝日が昇るまで寝ていたんだ。
あの日の後悔は今でも強く残っている。
最初からヌナの隣にいたら、ヌナの手はボロボロにならずに済んだかもしれないのに。
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作者名：ばみ x他1人 | 作成日時：2023年10月25日 5時
