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帽子を深く被ってマスクをした俺がタクシーに数十分乗って来たのは、都会から少し離れた所にあるヌナの家。
人通りが少なくて周りには沢山の木と畑や川が広がる、所謂田舎と呼ばれる場所。
俺が住む街とは打って変わって長閑なこの場所に、ヌナは1人で住んでいる。
高校を卒業してすぐヌナがこの家を買ったと報告して来た時は“何でそんな所に？”と思ったけど、確かにヌナには合っているかもしれない。
実家が都会にあったヌナは、元々自然が好きでマイペースな性格だからよく山や湖にフラッと行っていたんだ。
何年か前に教えてもらった番号で門の施錠を解除して、玄関の前に立ちインターフォンを鳴らした。
「久しぶりヌナ！」
「本当に来たの？」
「え？」
「今開けるから待ってて」
どうやらヌナは俺が今日家に来るのを冗談だと思っていたらしい。
玄関を開けてもらって家に入った瞬間、ヌナの香りで満たされた。言葉にすると気持ち悪いんだけど、でも本当にヌナの香りでいっぱいだった。
ヌナと会うのは4ヶ月前くらいにご飯を食べた時以来になる。
「お邪魔します」
「あれ？また大人っぽくなったね？」
「え、そう？髪暗くしたからかな」
「それで今日は何しに来たの？」
それ絶対聞かれると思ったからちゃんと理由を用意して来ました！
「ヌナのピアノが聞きたくて」
「電話か動画じゃダメなの？」
「生演奏がいいです」
嘘じゃない。
ヌナのピアノを聞くと、小学生の時に戻れた気がして心が落ち着くんだ。
他にも理由はあるけど、ヌナを納得させるにはこれだけで十分でしょ？
「……」
「ヌナ？」
ヌナがスマホを両手で握りしめながら一瞬だけ俯いたのを確かに見た。
スマホに写る通知はよく見えないけど、見当はついてる。
「ヌナにずっと弾いて欲しかった曲があるんだ」
ヌナの手元からスマホを抜き出して、代わりに俺のスマホから曲を流した。
「…どれ？」
「これなんだけど、ヌナ絶対好きだと思う」
「…うん、ほんとだ。ジソンイが作る曲は全部素敵だよ」
「え！？何で分かったの？恥ずかしいんだけど」
「はい、じゃあ歌手の方はそこに立ってね〜
きっと素晴らしい歌声を披露してくれるんだろうな〜」
「これ俺が歌う流れなやつ？」
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作者名：ばみ x他1人 | 作成日時：2023年10月25日 5時
