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# 謝 ページ34

·








迚気まづくて、恥ずかしくて
帰り道はお互いに何も言葉を発さなかった。


"「太宰さんと心中する最期も、悪くないですね」"


思い出す度に顔が赤くなりそうになる。

本心だと思う。
否、本心なのか…?

よく解らない、私は一体何を考えている?

横を歩く太宰さんの顔は見れなくて、今どんな顔をしているのか気になって仕方がない。

話さないと、何も始まらない。
それはよく理解している。

速くなり、耳から飛び出るのではないかと思う程に大きくなる心臓の音。

何か云おう。
何でもいい、他愛のない会話の初め。

石が詰まったかのように、声が出ない喉を思い切り開いて言葉を発する。


「太宰さん!」「Aさん」

「…へ?」「…え?」



思わず足を止める。




「…」




被ってしまった。


やらかした。
謝らないと、あやまらないと

そう思って太宰さんに向き合い、頭を下げる。


「被せてしまってすみませんでした」

「…ぶっ…ふふ…あははっ!」


頭の上から太宰さんの愉快な笑い声が聞こえた。

恥ずかしい。恥ずかしくてどうしようもない。

…恥ずかしい?

申し訳ない、じゃなくて?


「……?」

「ほら、顔を上げ給えよ…って、Aさん?」


アスファルトの床が、ぽつりぽつりと水滴で黒みがかってゆく。

この水滴は、この水滴は……


「…うふふ、素敵な泣き顔じゃないか」

「…ッ〜、!!」


しゃがみ込んで、私の顔を覗き込んでくる太宰さん。
頬に、するりと冷たい手が添えられる。

長い指が耳を挟むように奥へ奥へと忍び込んで、髪の毛を耳の後に掛けた。

私は、何故泣いているのだろうか。
解らない。
何故だろう。

申し訳ない、と、自分のせいだ、と言っていたこの頭が、申し訳ないよりも先に、恥ずかしい、というちがう感情で埋め尽くされた。

それに心が満たされたのかもしれない。

この性格で何度も何度も相手を苛つかせてきた。
この性格で何度も何度も傷ついてきた。

その性格が、少しずつ善い方向に向かっているのだ。


「ありがとう、…ござい、ますっ、」


そう云えば、ぽん、と頭を優しく叩かれた。


「却説、もうこんなに遅い時間だ。家に帰ろう。

私と、Aさんの家にね」


体勢を戻した太宰さんに手を握られ、その手を握り返した。


「はい、!」


日が沈んだ帰り道をまた、歩き出した。







_







着信音が、鳴った。








_

# 真→←# 顔



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gross - 面白いです… (1月8日 10時) (レス) @page37 id: 52a16cf4dd (このIDを非表示/違反報告)
落蕾 - 面白すぎる!続きが楽しみです! (5月29日 2時) (レス) @page36 id: 32354343cf (このIDを非表示/違反報告)
あいす - 面白いです!続き楽しみにしてます!! (2023年4月16日 17時) (レス) @page18 id: 71114ebb82 (このIDを非表示/違反報告)
文ストオタクの一般人 - 太宰さんナイスです!続きすごく気になります!頑張ってください! (2023年4月14日 23時) (レス) @page15 id: 14fd5e9416 (このIDを非表示/違反報告)
シュークリーム - すごく素敵なお話だと思います!続き待ってます! (2023年4月12日 16時) (レス) @page6 id: ece26d42b5 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:おりがみ | 作成日時:2023年4月11日 14時

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