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「も、もしも_」

「Aさん!?無事かい!?」

「…え?」


電話に出ると同時に、スマホから焦ったような太宰さんの声が聞こえる。

荒れた呼吸と、走る音。そして、厭なパトカーのサイレンの音が共に聞こえ、汗が流れ始めた。


「ぶ、無事、ですけれど、何かありましたか、?」




「今、君の店の近くで、

殺人事件が起きたんだ__」






/








「では、お気を付けてお帰りください」

「ありがとうございました」


警察官の人に深くお辞儀をして、背を向ける。
電柱の後ろから、太宰さんが出てきて手を差し伸べてきた。

首を傾げて、どうしましたか、と聞けば


「手、出して」

「は、はい」


従って手を差し出すとぎゅ、と握られる。

太宰さんの暖かい体温が右手からじわりと広がってゆく。
その儘、太宰さんが歩き出すので私も追い掛けるように歩く。

太宰さんとの間に沈黙が流れる。


事件の被害者は、高身長、二十代前半の茶髪の男性。胸を複数回刺されての、出血死だ。
犯人は未だ逃走中。警察が調査しているらしい。

私が居る所の近くだった。
私が働いているお店の近くだった。

真っ直ぐ進んですぐ左に曲がった所。

何も聞こえなかった。何故聞こえなかったのかは解らない。

夜空に夢中だったのかもしれない。
夜ご飯はどうしようか考えるのに夢中だったのかもしれない。

ただ、声もパトカーの音も何もしなかった。

なのに、なのに


「…ッ、ぁ…は、」


迚、恐い。

事件の詳細何て聞きたくなかった。見たくも無かった。
ただ、恐くて、恐くて走った。

走って左に曲がって、見てしまった。

先刻まで生きていたのだと解る死体を。
地面に伸び、広がった血も。

若し、太宰さんが少しでも来るのが遅かったら
若し、太宰さんが私に電話をしていなければ
若し、私が少しでもお店から動いていれば

死ぬのは私だったのかもしれない

生きていてもこんなに恐いのなら。
生きていてもこんなに怯えなくてはいけないのなら。

いっその事、もっと生きる価値があった筈の男性と_


「Aさん」

「、は、はい!」


名前を呼ばれ、意識がそちらに向く。

太宰さんの方を見れば、迚暗い表情をしていて、私が何かしてしまったのだな、と直ぐに解った。

謝らなければ、謝らなければ

太宰さんに棄てられたら私の存在意義が_





「咖喱、作ってくれるかい?」

「…へ、?」







*

# 咖→←# 安



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gross - 面白いです… (1月8日 10時) (レス) @page37 id: 52a16cf4dd (このIDを非表示/違反報告)
落蕾 - 面白すぎる!続きが楽しみです! (5月29日 2時) (レス) @page36 id: 32354343cf (このIDを非表示/違反報告)
あいす - 面白いです!続き楽しみにしてます!! (2023年4月16日 17時) (レス) @page18 id: 71114ebb82 (このIDを非表示/違反報告)
文ストオタクの一般人 - 太宰さんナイスです!続きすごく気になります!頑張ってください! (2023年4月14日 23時) (レス) @page15 id: 14fd5e9416 (このIDを非表示/違反報告)
シュークリーム - すごく素敵なお話だと思います!続き待ってます! (2023年4月12日 16時) (レス) @page6 id: ece26d42b5 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:おりがみ | 作成日時:2023年4月11日 14時

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