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彼女は押し黙って。少しだけ意地の悪い事を訊いてしまったかと、僕は心中唸る。
「い、家に」
「君の家、半壊してて戻っても廃墟同然だよ? いつ柱が壊れても可笑しくないし」
ぐう、と返す言葉もないとばかりにAは俯いた。車に乗り込んだ途端意識を失ってしまった少女が目を覚ました時には粗方を伝えたから、自身の家が見るも無惨な有様になっているとは分かっているはずなのに、どうして今になって『帰る』だなんて言い出したのだろう。
ここの暮らしが気に入らなかったとか?
まあ、それは有り得るか。
そもそもここには何も無いから、外出も制限されている彼女の身としては、不便を感じても何ら可笑しくは無い。生活必需品の大抵は揃っているけれど、所詮はそれだけ。嗜好品や趣味のもの、視界を楽しませる彩りなどは一つ足りとてこの部屋には存在しない。
「君は僕の条件を飲んだでしょ。衣食住を提供する代わりに、君の事を少しだけ調べさせて欲しいって。分かりましたって、君言わなかった?」
再びモジモジと体を動かして彼女は視線をあっちへ、こっちへと彷徨かせる。全くどうしてそんなに怯えているのか、いや僕に怯える気持ちも多少は分かるけれど、そんなにあからさまな態度を取らなくてもいいではないか。
こちらとて気弱な、ましてや術師でもない一般人と深く関わるつもりは無いのだから。肩の力を抜いて甘い蜜を啜って、代わりに僕が望んだ事への答を出して、それらをただひたすらに甘受して居ればいいのに。
毎日質問する訳でも無い。ふと気になった事を僕が訊いて、それに君は答えて。代わりに欲しいものを全て、自分の金を溶かさず手に入れればいい。
これ以上にない甘ぁい話だろう? 魅力的だろう?
さあ。食らいつけよ。
野に放たれた、飢える畜生のようにさ。
「言いました、けど、……でも」
一瞬こちらを向いてはまた、口を噤んで。本当に何がしたいのかこれっぽっちも分からない。言いたい事があるのならハッキリと、音に出して伝えればいいのにどうしてそれをしない?
見るからに弱虫で、ビクビクと怯える少女の姿が、どうにも僕の感情を逆撫でして不愉快だ。
「ごじょ、……ごっ、五条さんに! ……ご迷惑を、お……お掛けして、しまう、ので」
語尾へ向かうにつれ言霊は萎んでいく。勿体ぶってからそんな事を言われるとは到底思わず、僕はポカンと口を開けてしまった。
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楓(プロフ) - こういうお話好きです...!これからも沖田妖狐さんのペースで頑張ってください!! (2022年2月12日 23時) (レス) @page19 id: ef9e4cc349 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:沖田妖狐 | 作成日時:2022年1月10日 0時