【呪術廻戦】サヨウナラとこんにちはを今、君に。【五条悟】 (ページ3)

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それにしても、物凄く静かな子だなと僕は瞬いた。普通ならば感覚が麻痺しているとはいえ震えたり、拒否したり、何らかの感情を見せるものではないのか、と。

それがどうだ。息を詰める事さえあれど、声も、反応も、何もかもが彼女から失せている。失せているというか、表に出されないというか。

やはり最近の子はよく分からない。

歳の頃は恐らく十三、十四辺りだろうか。未だに幼さの残る顔立ちの中、含まれた瞳が何とも痛々しく僕には見えた。完全に崩壊こそしていないものの、きっと辛うじて正気を保っている程度のものだろう。

「お嬢さーん」

分かってはいたが、当然返答は無い。その変わり首裏の襟をぎゅ、と握られた。

「お名前は？僕は五条悟。そろそろ口利いて欲しいんだけど」

ここから帳の外まで、数分は歩かなければならない。保護という名目で抱えているのだからせめて、僕としては名前と素性くらいは把握しておきたい所なのだが。

少しだけずり落ちた小さな体を抱え直す。抱えて初めて感じた体の重さに驚愕するばかりだ。本当に十三、十四そこいらの体なのか？幾ら何でも軽すぎる。
見た所何かを患っている風でも無いし、それならばもう少し肥えたって良いはずだ。

だのに、まるで空気を抱えているのかと錯覚する程、彼女の体はどうにも。

どうにも、軽かった。

薄気味が悪い。顔立ちや体付き、筋肉量から見て僕の推測した年頃なのはきっと、間違いの無い事柄なのだ。人間をこの腕の中に抱えているという実感が、ただの少しでも湧いてくれないのは何故か。

然し、全てを見通す六眼は彼女を『人間』だと言っている。呪力も微弱ながら確りと感じるし、生きている人間である事は紛れも無い事実なのに。

まぁ。この子は己の教え子ではないし。特別関わりのある人間の血縁者だ、とかいう訳でもない。ならば取り敢えず数日から一週間程預かって、引き取り手が居れば送り、居なければ伊地知に然るべき場所へと送らせるだけで良いだろう。

一般人は極力、こちら側を覗かない方が身のためだ。

彼女が望むのなら記憶に霞が掛かる術でもかけてやろう。完全に忘れさせる事は出来ないしふとした時に思い出してしまう可能性もあるけれど、本人にとっては無いよりかはマシかも知れない。

その時だった。

「A」

透き通った声が耳を掠める。

「わ、わたし、は。Aって、言います」

それが彼女と、初めてマトモに言葉を交わした瞬間だった。