16 ページ18
呪詛師の影か、人間と同等、もしくはそれ以上の知性を持った呪霊の影か。そのどちらかだと断定するには、まだまだ判断材料が足りない。
それに凄惨な現場となっていたあの場所で、彼女だけが無傷で済んでいた事も気になった。
――ともなれば、今回の『鍵』となるAを、みすみす見殺しにするだなんて馬鹿な真似はするはずもなく。
全く面倒臭い案件が舞い込んでしまったものだと、僕は背もたれへ体重を預けて深く深く息を吐いた。少し離れた場所で衣擦れの音がする。
「えっ、と、……本を……」
「本?」
「は、はいぃ」
いきなり何の話だ、彼女と本の話なんてしていたっけ。短時間のうちに考え込んでしまったからか、つい数分前の事が思い出せない。
「えと、その。外出の理由は、本を買いに行くためで……」
「あ、そ……」
ソファの背もたれに掛けていた腕がずるりと崩れた。そんな事のためにこの子は、僕の言い付けを破ってその命を危険に晒したというのか。
馬鹿にも程がある。
「先日サイン会に当たって、そ、それで、開催日が今日で……丁度この隣の市だったので、行ってしまいました」
最早ため息が出てしまいそうだ。くだらない。サイン会だって、生きていればいつかは行けるだろうに。それなのに、ご丁寧にも裸と半ば同義な状態で外を出歩いたと。
呪力のコントロールも式神の召喚も、呪符を用いた結界の展開さえAは出来ない。まだ教えていないのだから当然だ。
そんな無防備な人間が強烈な呪力の匂いを纏って歩いているのだ、呪霊側からすれば格好の餌というものである。
「何か行動を起こすのなら僕に一言言って。把握してない事されて困るのは僕だし、実際今回急いで君の所に向かったからね。疲れてたのに」
「そう、ですよね。……すみません、ごめんなさい」
イライラする。
「迷惑なんだよ、勝手な事されるの。今日だって僕は君に関する書類やら何やらを終わらせたってのに、肝心のAはご機嫌にサイン会行ってた訳でしょ? 笑っちゃうね」
相手は子供だ。今口にしているそれらはこの上なく大人気ない、八つ当たりにも等しい言霊だった。そんな事は重々分かっているし、僕はいい歳した大人なのだから、余計気を回す事となる前に早く口を閉ざさないと。
「勝手にすれば。死んでもいいなら好きに生きなよ、ほら」
ああ、どうして止まってくれないんだ。
29人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
楓(プロフ) - こういうお話好きです...!これからも沖田妖狐さんのペースで頑張ってください!! (2022年2月12日 23時) (レス) @page19 id: ef9e4cc349 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:沖田妖狐 | 作成日時:2022年1月10日 0時