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カラスの鳴き声が辺りに響き渡る。
確りと大地を踏み締めるもAは度々後ろを振り返って、変わらずこちらの様子を窺っているようだった。
呪霊、呪詛師ならまだしも彼女は一般人だ。人を護るために存在する呪術師が、考え無しのまま無闇に人を傷付ける訳が無いだろう。
なんて、そんな事は彼女に言っていないから分からなくて当然なのだが。寧ろ分かっている方が怖いまである。
僕達が歩む商店街の道は橙色に染まっており、まばらになった人影を茜色が照らしている。太陽の光が強ければ強い程、影は深まるのだっけ。足元に伸びる黒い人影へ目を向けて、ここ最近深まっている『こちらの世界』についての事へ思いを馳せた。
頻繁に姿を現す特級の存在、宿儺の指、加えて宿儺の器。そこに一級呪霊の被害に遭った少女の保護――考える事が山積みで、そういえば最近はろくに眠れていないなとため息を吐く。
これからどうするか。授業終わりや任務終わりになるたけ早く帰宅して、彼女にあの目の使い方を教えるべきか?
そうするとしたって、多忙である僕が短期間で全てを教えてあげられる保証は無い。保護して一週間は経っているだろうし、僕としてはそろそろ式神やら手隙の呪術師に任せて、Aに外出を許可してやりたい所なのだ。
衣食住を提供する代わりに質問へ答えろ、とはいったって彼女は健康体な女子高生な訳で。通っていた学校への被害も中々だったから早くに戻る事は叶わないだろうけれど、一刻も早く青春の世界へ返してやりたいのは紛れも無い僕の本心だった。
「ねぇ、A」
「えっ……あ。っは、はい」
これまで一定の間隔を開けて歩いていた僕は、ふと思い立った事柄を訊くためにAの数歩後ろへまで迫る。いきなり声を掛けられて驚いたのか、ビクンと肩が跳ねた後、怯えの滲む少女の面がこちらを向く。
「それらしい、フツーの生活からはかけ離れてるけど。高専に転入する?」
「はぇっ!?」
高専、転入、と疑問符たっぷりの言葉が反芻される。ああそういえば、この子に僕が教師をしているとは確か伝えていなかったか。
「僕、教師してんの。センセーなんだよこれでも」
大きな眼がぱちりと瞬いたかと思えば、目下の娘は唇を震わせた。わなわなと力の入る腕に押し潰された紙袋がグシャリと音を立てる。
「え、――えぇえええええええぇぇっ!?」
…………そんなに驚く事?
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楓(プロフ) - こういうお話好きです...!これからも沖田妖狐さんのペースで頑張ってください!! (2022年2月12日 23時) (レス) @page19 id: ef9e4cc349 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:沖田妖狐 | 作成日時:2022年1月10日 0時