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「おまた〜。ほら、帰るよ」
祓除の始末を見送ってから、背後で硬直したままの少女へ声を掛ける。無理もない、家族や友人らを皆殺しにした同類が再び目の前に現れたのだ。呼吸さえもを忘れてしまう程緊張するのは、仕方の無い話だろう。
本体の祓除は終わり、今となってはあの呪霊も塵芥すら残っていない。それを彼女も確認しているはずなのに、筋肉の緊張と浅い息は変わらず続いていた。あの呪い以外に、恐れを抱く存在が居るのだろうか。
「……あー、そっか。マトモに僕が戦う所見たの初めてだっけ。ってかそもそも、君から見ればあんなバケモンにあっさりと勝った僕は怖いに決まってるよねー。僕離れて後ろ歩いてるから先に帰る?」
「い、いや……」
「我慢は体に悪いぞ〜? 怖いものは怖いままでヨシ! なんてったって君は非術師だからね。怖くて当然さ」
そこまで僕が言い聞かせた所で、モジモジと言い淀んでいたAは押し黙った。あの時の少女に自我と呼べるものは余り残っていなかったし、そもそも人外と戦って一瞬で祓ってしまうような人間は、きっと気弱で臆病者な彼女にとっては恐怖以外の何ものでもない。
僕とした事が配慮に欠けていたなあ、と後ろ髪を数回乱せば、未だに渋っている様子のAを促して先を急がせた。
夜は呪いが余計活発に動く時間帯だ。呪力の残滓を纏っている彼女は、今現在早く帰るに越した事はないと言えるだろう。
多少の残滓ならば特段問題なぞ無い。いや、現象を引き起こすまでには至らない、と言った方が正しいか。然し残滓の濃度が濃ければ濃くなる程、対象に寄ってくる呪霊は数を増す。
その呪力を取り込み我がものとするために、飢えた獣の如く相手を喰らい尽くそうとするのだ。
今回彼女が受けた障り――それは残滓の他に、もう一つ存在する。
危機的状況に陥ったが故に潜んでいた能力が開花したのか、Aは呪霊が視える目を持ってしまった。これは非常に面倒臭いケースだった。
基本的に呪霊、呪いとは目を合わせてはならない。大抵の呪術師、窓、補助監督がそんな事は基礎だとばかりに『見えないフリ』をできたとしても、後天的に例の目を持ってしまった一般人はそんな事ひとつも知らないのだ。
最悪被呪するか食料となるか、恐怖という負の感情から新たな呪いを生み出すか。その他にも様々な例はあれど、おおよそがこのどれかに分類される。
本当に、本ッ当に、面倒臭い事になってしまった。
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楓(プロフ) - こういうお話好きです...!これからも沖田妖狐さんのペースで頑張ってください!! (2022年2月12日 23時) (レス) @page19 id: ef9e4cc349 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:沖田妖狐 | 作成日時:2022年1月10日 0時