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トン、トントトン、と五条さんは爪先でリズムを取る。先程ぐにゃりとひしゃげたお化けは不快な音を唇から零し、口腔から黒い泡を吹き出していた。ゆぅらりと上体が揺れ、長くごわついた黒髪が彼女の体に倣って夕闇に靡く。
「んー……見た所、二級呪霊かな。ま、一級であろうが二級であろうが僕には関係無い話なんだけど」
面倒臭そうな雰囲気を醸しつつ、ふう、と五条さんは息を吐いた。再度トン、と爪先が地面を蹴った瞬間男の後ろ姿が消える。
「ハーァイ、髪の毛手入れした方がいいんじゃない? 怠る女子はモテないぞ」
慌ててお化けの方に視線を向けると、前髪をかき分けて怪異の顔を覗く五条さんの姿が映った。私は怖くて怖くて声すら出せなかったのに、あの人はどうしてそんなに堂々として居られるのだろう。こういう状況に慣れているのだとしたら、五条さんさえもが私にとっては恐ろしく、逃げ出したい気持ちが勝ってしまいそうだ。
その皮肉を受け取ったのか受け取っていないのか、呪霊と呼ばれるそれは勢いよく右腕を振りかぶった。枯れ木に似た細さをしていた腕は、ボコリと音を立てて丸太の如き太さにまで変化している。
「おっととと、危ない危ない。もうちょっと焦らしでも覚えたら? 長引かれてもダルいし面倒臭いけどさあ」
最早ヒヤヒヤとしてしまう言動に私の足は笑ってばかりだ。そんなに怒りを煽って五条さんが怪我でもしたら、と思うと気が気ではない。
振りかぶられた丸太のような腕。まるで軟体動物さながら、軽々と躱してみせた彼は悠々と怪異の四肢を切断して、……切断、して?
まさかあの一瞬のうちに、あの太くて硬そうな腕と足を切り落としたというのか。他の誰でもない、優しい五条さんが? そんな事は有り得ない。
第一彼は人間だ。いや、あらかじめ説明された呪術師という珍しい職種の人間だけれど。それでも歴とした人間だ、あんな化け物を圧倒できるはずがない。
そんな事ができるのだとしたら、それは。
「おまた〜。ほら、帰るよ」
呪霊に負けず劣らずの……化け物だ。
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楓(プロフ) - こういうお話好きです...!これからも沖田妖狐さんのペースで頑張ってください!! (2022年2月12日 23時) (レス) @page19 id: ef9e4cc349 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:沖田妖狐 | 作成日時:2022年1月10日 0時