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書置きは残したけれど、電話の一本も入れずに家を出てしまった。五条さんに悪い事をしたかも知れないなと、外出時から脳内にこびり付く罪悪感が進みゆく私の足を引き止める。
私の体には残穢? 残滓? どちらかは忘れてしまったけれど、力の残り香ものようなものが未だに着いているらしい。だから下手に外出をして、低級呪霊? に目を付けられては危ないと、今の今まで外出は一度もしていなかった。


今日外出する予定は元々立てていたのだから、事前に五条さんへ相談していればよかったのに。


夕暮れ時、またの名を――逢魔が時。黄昏時。


黄昏時の語源は確か、日が落ち始めた頃相手の顔が見えなくなるから、『そこに居る貴方はだあれ』……と問いかける事から。たそがれ、誰そ彼に繋がったとされていた気がする。


嗚呼、そこに居る貴方はだあれ。


ぬうりと黒く、黝く伸びる鋭い指先が私の額を撫でる。息が震えて声はろくに音を成さず、紙袋を抱えていた腕がガタガタと震えた。
これが呪霊と呼ばれるものなのか。これと私の家族達を葬ったのは、言わば同じ輩なのか。


あの時見た光景が前触れもなく目の前を占領する。キャンバスに塗りたくられる鮮明な赤なんてものじゃなくて、彼岸花に墨を垂らしたような……どす黒くて、滲む赤さえもを飲み込まんとする奈落の黒色。


「あ、あ……」


異形のものと呼ぶに相応しい、鋭利な爪が頬に一筋の傷をつけた。ひんやりと冷たい風に晒された水気が急速にその場所を冷やし、また同時に痛みと熱が広がっていく。


顔が見えない。服装からして女性――と呼んで良いのかは分からないが――なのは理解出来ても、それ以上の情報を脳が拒否している。声ひとつたりとて、今の私には命取りにも等しい行為だ。


茜色の空が、血色の空が黒の存在をゆっくりと暴き出している。雲間から覗いた太陽に晒されたのはゆっくりと若月に歪む、大きな唇だった。


「だーかーら、勝手に外出ちゃダメって言ったでしょ」


嗚呼、食われる。そう思った瞬間にギチリギチリとひしゃげる黒の者。いきなり後ろから声が掛かったかと思えば、肩口辺りでぬう、と私の顔を覗き込む黒色のアイマスクと目が合う。


「ご、五条さん……!?」


「外出は今の君にとって命取りなの。今日、その身をもって分かったよね」


大きな手はこちらに伸びて。ぐい、と私の頬を拭った五条さんは例の怪異へ向き直る。


「さ! いっちょ祓いますか」

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(プロフ) - こういうお話好きです...!これからも沖田妖狐さんのペースで頑張ってください!! (2022年2月12日 23時) (レス) @page19 id: ef9e4cc349 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:沖田妖狐 | 作成日時:2022年1月10日 0時

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