【d!】ごちゃごちゃの缶詰【中編集】 (ページ10)

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そのことを大まかにショッピに話せば「いや草。女子こわ」と軽く鼻で笑われた。少し腹が立ったので箸で彼のカレーを一口つまめば、「いや箸でカレー食べる人おりゅ？」とあきれ顔で言われた。だって箸しかなかったんだよ。

「てか先輩も上司かチーノにチクればいいじゃないっすか。そうすれば勝ちっすよ」
「周りに知り合いが誰もいないジャングルの中で今後の人間関係に博打賭けるようなことできるわけないでしょう。
もう少し経っても改善しないようだったら、本人に直接進言するつもりよ」

そう言えば、「相変わらずっすね」と肩をすくめて彼が食事を再開する。

彼なら、ばっさりとその場で嫌だと言えるのだろう。彼のそういうところが私はすごく気に入ってたし、同時に羨ましかった。私はなんでも寛容に受け入れるほどお人よしというわけではないが、彼ほど強くなかった。上司やチーノ君にこのことを言えば、直ぐに彼女たちに忠告してくれるのだろうが、状況がさらに悪化するのは目に見えているし、なおかつチーノ君に至っては、年下の彼に縋るのは私のプライドが許さなかった。それをショッピは分かったのだろう。人の好意を迷惑だと突っぱねる度胸はないくせに、それを上手く使えるような器用さもない。また、面倒ごとを自己完結して自分でどうにかしようとする私のこの性質を、3年近く横で見てきた彼が知らないわけがなかった。

時計を見ればもう昼休みも残りわずかで、少し箸のスピードを速めた。

「あいつもあいつで度胸がないっすね」
「え？」

どういうこと？と聞こうとしたら、そのタイミングで小さめの生姜焼きが1枚、スプーンに乗せられて彼の口に吸いこまれた。あ！！とすかさず彼を咎めれば、「いやあんたもさっきやったじゃないっすか」と、さも当然ですと言わんばかりの真顔で言われた。

さっきのはお前が悪いだろ！と箸をもう一度カレーに向かって伸ばすが、アハハと笑われて手でカレーをガードされてしまった。

　ぐぅ、と顔を顰めながら残り少ない生姜焼き定食を食べようとすれば、「Aさん！」と耳に馴染む心地よい高さの彼の声が聞こえてきて、思わず体が跳ねる。

横を見れば、予想通り話題の彼が居た。彼はいつもの人の好いニコニコとした笑みを浮かべていたが、良く見えないはずのメガネの下の目は笑っていないような気がした。