【d!】ごちゃごちゃの缶詰【中編集】 (ページ5)

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「さぁ、帰ろうや。みんな待っとるで」

　雨音がこだまする夜の森。闇の中に足を進める彼の足元を、彼女はただ茫然と見つめていた。先程まで歩いていた道を引き返しているどこか不思議な感覚に、冷えた彼女の頭は自身の無力さを自嘲した。

　ふと目に入った落ち葉に、薄く、赤いナニカが付いていて、あぁ、自分の血か。とぼぅっと思う。彼はこれを辿ってきたのだろうか。この雨の中、五感がほとんど機能しないはずの闇夜の森の中で、かすかな血のにおいと、色を辿って。はなから、勝負は決まっていたというのか。

　では、自分が見た蜘蛛の糸は？ただのまやかしだったとでも？そんな惨いことがあるのかと、彼女は肩を震わせて泣き続ける。

どこで自分は間違えたのだろうか。自分一人で幸せをもぎ取ろうとしたのがいけなかったのか。

　極楽を目前にした彼女の手の先で、ぷっつりと切れた蜘蛛の糸。もう一度地獄に体が落ちていく感覚に、彼女の中の何かが千切れて消え去った。

　あぁ、神様。私は、彼らから逃れることはできないのですか。