【d!】ごちゃごちゃの缶詰【中編集】 (ページ36)

今日:19 hit、昨日:13 hit、合計:7,957 hit

＋ページ36

それは、今一番聞きたくない声だった。

Aの目の色が変わる。

炎天下の中、必死にボールに食らいついて汗を流すシャオロンは、男の俺から見ても格好良くて、それを見るAがどんな顔をしているのか、確認することはできなかった。

ノック練習を終えたシャオロンは、偶然にも屋上に居た俺らに気づいてしまった。少し目を見開いた後、ぱっと笑みを浮かべてこちらに手を振るシャオロンに、Aは顔を真っ赤にして、弾けたような笑顔で振り返す。
俺に向けられたことのないその笑顔に胸を痛ませながら、目の前の男に軽く手を振り返す。はよどっか行け。という気持ちを込めて。

顔赤いで、と彼女に囁けば、シャオロンが一瞬視線を外した際に鳩尾を突かれ、思わず声が出る。

赤い顔のまま弁当を食べ始めた彼女を横目に、グラウンドに居る男を見れば、嫉妬を燃やした瞳でこちらを見つめていた。それに少し優越感を感じた俺は、彼から目線を逸らし、目の前の彼女との会話を続けた。

しかし、会話の中でも、グラウンドに居るあいつが気になるのか、彼女の視線は時折下を向く。

初夏の日差しと野球部の掛け声も相まって、体感温度が一層高いのだろう。彼女は制服をパタパタとはためかせながら、「暑いわ、まじで」と呟く。彼女が制服をはためかせるたびに、彼女の柑橘系の香りと、制服の下から覗く白い肌にくらりとする。

それでも、彼女が熱い視線を向けるのは、俺ではなくてアイツで。彼女の茹だる瞳の熱にあてられた自分と、どこか冷めた心でそれを見る自分が交錯する。

「…あっついわ。ほんまに」と、体内にたまった熱を吐き出すように言った。冷たい汗が、俺の頬を伝った。