【d!】ごちゃごちゃの缶詰【中編集】 (ページ32)

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「でも、失恋してしもうた。」

え、とシャオロンが彼女の方を向く。

酷く、泣きそうな笑みを浮かべて、雲から顔を出した夕日に照らされている彼女が、ゆっくりと口を開いた。

「好きな人が居るんやって。…太陽みたいな。きっと、誰よりも可愛くて、素敵な子。こんなんとは、似ても似つかんような」

シャオロンが息を呑む。その言葉に、酷く聞き覚えがあった。いや、言った覚えがあった、と言った方が正しいだろう。

シャオロンが言葉を発する前に、一呼吸置いた彼女が、向日葵色の瞳を真っすぐに見て、口を開いた。

「ねぇ、シャオロン。ずっとずっと、好きやったんよ」

へらり、と笑みを浮かべた彼女は、瞳に溜めた涙をほろりと流した。彼女の背後に在る夕日の逆光に、思わずシャオロンは目を細める。

その言葉を皮切りに、Aは扉に向かって走り出した。バッグも置いて、なりふり構わず走り出したのだが、大きな手が、彼女の右手を掴み、彼女の逃亡は防がれた。

「ちょ、待ってや！どこいくねん！」
　焦ったような声音の彼を見ることなく、彼女は涙を流しながら抵抗する。
「離してや！」
「離すか！俺の話を聞け！」
「なんでや！なんで…見んといて、こんな、っ、酷い顔、見んといてやぁ…」

ぐすぐすと、我慢の糸が切れた彼女がしゃくりをあげて泣き出す。そんな彼女の前で、ガシガシとニット帽を掻いてあ“ー！とシャオロンが吠えると、驚いた彼女が眉尻を下げながら彼を見る。

そこには、夕焼けのように顔を真っ赤にして、怒ったように目を吊り上げたシャオロンが居た。

「お前や」
「…は？」

先ほどまで流れていた涙が思わず止まる。
やから！ともう一度声を上げたシャオロンが、一度咳払いをして、Aとしっかり向き合った。

夕日が2人を照らし、2人の影が、屋上のコンクリートの地面に伸びる。

「俺の好きな奴は、お前や。あほ。」

この早とちりめ…告白は俺から、もっとかっこよくしたかったんに。と零すシャオロンを、彼女は呆然と見つめる。

顔を真っ赤にして口をはくはくさせる彼女に、んふ。と笑みを零したシャオロンが、瞳に真っ赤な太陽を映しながら、一歩、また一歩と踏み出す。

「ほんまに、酷い顔。」

かわええ。好き。と、柔らかな声が彼女の耳に届く。自分自身を見つめる彼のその表情が、今まで見たどの場面よりも一等絵になっていて、彼女は思わず息をのんだ。

真っ赤な夕焼け空の下、2人分の影が、重なった。