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「…慣れんことしようとしたら、下手こいただけや。」
いたたまれなくなって、視線をコンクリートの地面に移す。呆れられただろうか、と、彼女は途端に恐ろしくなって、話題を変えようと言葉を発しようとするが、何も浮かばない。
「なにかするのは否定せぇへんけど、気ぃつけや。傷が残ったらどうすんねん」
シャオロンのどこか真剣な声に、Aの肩が跳ねる。
からかわれるか呆れられると思っていた彼女は、驚いて彼の顔を見ると、少し眉間にしわを寄せた彼が、彼女を真っすぐと見つめていた。目が合って、顔に熱が集まった彼女は、その熱がバレないように、もう一度俯く。
「…別に、傷が残ったって困らん。私、ガサツやから、傷が増えたところで、またなんかやったんかって笑われるだけや」
彼の真剣な瞳がむずかゆく、思わずそんな言葉を吐き捨てた。彼女の言葉は、別に間違っていない。
実際、教科書を見せた隣の席の男には、「包丁で指切った？料理したんか、お前が？慣れへんことするからやで」と笑われた。
朝のことを思い出し、少し強い語調で話してしまったことに、少し後悔した。現に2人の間には沈黙が流れている。
怒らせてしまったか、と恐る恐る彼女が顔を上げ、彼の表情を見ようとした瞬間、彼に右腕を掴まれた。目をむく彼女に、諭すように彼が言う。
「あほか。俺が困るわ。傷ついてお前が苦しい思いすんのは、嫌や。それに、ガサツやからとか関係ないやろ。女の子に傷が残ることを、笑うような奴は最低や」
彼の言葉に、彼女の胸がトクンと音を立てた。
ガサツでも、あの子のように可愛くなくても、シャオロンは、自分を女の子として見てくれていた。何より、自分が傷つくことが、嫌だと言ってくれた。それらの事実が、彼女の想いをより増大させる。顔の熱が、彼女から引くことはなかった。
少しの沈黙の後、彼女の腕を握る自分の手に目をやった彼は、我に返り、勢いよく手を離した後、「…ごめん」と、下を向いた。
「ええよ。…ありがと、シャオロン。嬉しかった」
顔を赤く染めながら、彼女が言葉を吐く。柔らかな彼女の声に顔を上げたシャオロンが、小さく目を見開く。
照れくさそうに、下手くそな笑みを浮かべる夕焼け色の彼女が、キラキラと、向日葵色の瞳に反射した。
「…へへ。ええよ。本当のことやもん」
花が咲いたように、にぱっと笑う彼に、つられて彼女も微笑んだ。
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作者名：白詰クサ | 作成日時：2024年2月26日 23時
