検索窓
今日:2 hit、昨日:13 hit、合計:7,940 hit

ページ26

時は5分前に遡る。



Aが古びた手すりに手を添えながらゆっくりと階段を上がり、扉に手を伸ばした瞬間であった。


「ごめんね。呼び出しちゃって。」


扉の向こうからの声に伸ばした手が止まる。かわいらしい、鈴のような女の子の声であった。

震える声には緊張と、どこか不安げな色が混じっていて、庇護欲が掻き立てられるような、そんな声だ。少し低く、クラス対抗合唱コンクールで万年アルトの自身の声とは似ても似つかんな、と、Aは思った。


「あー、別に。部活もないし、平気やで」


自分の入る幕ではないな、と引き返そうとした瞬間、そう返す男の声に、酷く聞き覚えがあって、足を止める。

はっと振り返り、光が差し込む扉の隙間を見つめた。

胸が掻き立てられるような感覚から、思わず彼女は、先ほど引き返した階段をもう一度上り、扉の隙間から向こう側の景色をのぞき込む。


そこには、昼、彼女が熱心に視線を向けていた相手と、小さな、かわいらしい女の子が、向かい合って立っていた。


思わず息を呑む。青春の一ページ。少女漫画の一コマと言ってもいいほど、夕日に照らされている彼らは、キラキラと輝いていた。


もじもじとスカートを握る女の子の手は、紅葉のように小さく、かわいいものだった。華奢な体は、少し乱暴にすれば折れてしまいそうで、あんな子に抱きしめられたら、男子はたまらないだろう。

スカートを握りしめていた女の子が、ひとつ呼吸をおいて、シャオロンに向けて言葉を投げかける。



「あのね、」



好き。好きなの。



生暖かい風に乗せられたその言葉は、扉の隙間から、Aにも伝わってきた。女の子の熱にあてられるのと対照的に、指先あたりが冷たくなる。ふと、昼食の時に幼馴染から言われた言葉が彼女の頭をよぎった。



ロボロ…獲られて、しもたかも。と、彼女から小さく、自嘲気味な笑いが漏れた。

+→←+



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (22 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
50人がお気に入り
設定タグ:wrwrd , 中編集
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

この作品にコメントを書くにはログインが必要です   ログイン

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:白詰クサ | 作成日時:2024年2月26日 23時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。