【d!】ごちゃごちゃの缶詰【中編集】 (ページ16)

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あまりの突然の出来事に思考が止まってしまった。

鬱のたばこの匂いが分からなくなるほど、強い彼のたばこの匂いが、扉を開けたとたんに流れ込んでくる。

脳内を良い感じに犯していたアルコールなどその瞬間に吹き飛んだ。

どうして、なぜ、あなたが、と、多くの疑問が大量に押し寄せてきて、あ、だのう、だのといった、言葉にならない母音のみが口から零れる。

そんな私の姿をつま先から頭のてっぺんまでまじまじと見た彼は、いつか見た優しい笑みとともに、別嬪になったな。と、砂糖を煮詰めたような甘い声で囁いた。

　私が正気を取り戻したのは、彼にやさしく髪を耳に掛けられた時だった。

震える声で「なんで、」と尋ねれば、その後に続くはずだった問いは、彼の唇によって止められた。

その意味が理解できなくて、ただ彼からキスされている夢見心地な感覚に酔いしれた。

つんと香る、あの頃と同じタバコのにおい。彼のそのにおいが鼻腔を通って、体内に充満する感覚に、酷くめまいがした。

しかし、しばらくの間キスを受け入れていた私の身体も、フローリングを裸足で歩く後ろからの足音で我に返り、彼の胸板を思い切り押した。

一瞬見えた、悲壮感に満ちた彼の顔を見なかったふりをして、後ろを振り返る。

鬱の姿を見れば、弁解しようと開かれた口から言葉は発せられることはなかった。

鬱はただ笑みを浮かべて、半身を壁に預け、こちらを傍観しているだけだった。