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今日という日を迎える前に、彼に尋ねたことがある。
私でいいのかと。
幾度も尋ねた。最低な女を傍らに置いて、苦しむのは貴方だと。それでもいいのかと。
それに対して彼はへらりと笑って、「承知の上やで。ええよ。俺はそれでもええ。最低同士、ごっつお似合いやんか。」と言うものだから、こちらがいたたまれなくなって泣き出してしまうのがオチだった。
そのときにいつも、屑と言われる彼も人並みの幸せを感じてほしいと、ずっと寄り添ってくれた彼に、素敵な人が訪れますようにと、私なんぞ見向きもされないであろうに、神に祈ったものだ。それを彼に言えば、「人並みの幸せを甘受するくらいやったら、お前との地獄道を選ぶわ。」と、彼らしくもない口説き文句を吐かれたのだった。
そんなことを思い出しながら、開かれた扉の先の待ち人のもとへ歩き出す。
白いベールに身を包み、ふんわりとした純白の衣を身にまとった私は、例えるならば海月のよう。やんわりと海へ私を誘った彼は、目の前の神父からの問いに是と返す。
彼と私を縛り続ける鈍色に輝く、嬉しいはずのそれは、重石よりももっともっと重く、苦しいような気がした。
彼が私のベールを取ると、深海のような瞳と直接目が合う。海流に流されるように彼に近づき、キスをする。
今日の彼からは、たばこの香りがしなかった。いつもの彼の香りがしないことへのちょっとした違和感と、少しの安心。曇り空の色と同じそれは、少し苦手だったから。
そう、いつだって、曇天と同じ色のそれは、青空を隠してしまう。
「…別嬪になったな。前より、もっと。」
がつん、と、頭を殴られたような感覚だった。
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作者名:白詰クサ | 作成日時:2024年2月26日 23時