【d!】ごちゃごちゃの缶詰【中編集】 (ページ1)

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◆おー、まいごっと〔黄緑色〕ページ1

※多少の流血表現あり

　木々が生い茂る、闇に包まれた森の中。
　大量の矢のように激しく、鋭く降り注ぐ雨が、更に視界を悪くする。
　聞こえるのは、自身の呼吸音と、足が地面と接する度に鳴る水音と、地面に刺さる雨の音のみ。雨のにおいに包まれた森の中では、獣のにおいも、何もかもかき消されている。

　身体は雨によってずぶ濡れで、靴下しか履いていない足には一歩、また一歩と踏み出すたびに石が食い込み、鋭い痛みが襲う。緊張と酸欠で正常に機能しない脳には、安全な道や、障害物を避ける冷静さは無かった。

　今は全くと言っていいほど必要のない味覚以外の五感はほとんどの機能を失っていた。足は痛みでほとんど感覚はなく、彼女が走った後には、赤黒さを帯びた雫が石や木の葉に付着していた。しかし、この時、そんなことを気にしていられるほどの余裕を、彼女は持ち合わせていなかった。

　このチャンスを、決して逃してはならない。

　あの監獄から逃れるための蜘蛛の糸。それは、何の前触れもなく彼女の前に垂れてきた。僅かな可能性でも縋りつきたかった彼女は、その糸を掴み離さず、なんとか彼らの屋敷から脱出することができた。
　目的は、この森を出ること。最低出られずとも、人の影を見つけて助けを求めること。しかし、視界も狭く、ましてや土砂降りの森の中で人が居る、または人を見つけられる可能性は大いに低いだろう。彼女はこの森から出ることだけに集中し、木々の合間を縫って坂を下る。

足を止めずに走り続けている彼女は、彼らの館から離れるのに比例して、彼らとの思い出が少しずつ脳内でフラッシュバックしていた。

　幸せだったかつての記憶。
　いつから、彼らの眼差しが狂気を含むようになったのだろうか。

　雨ではない、温かい雫が頬を伝う感覚に、思わず手で目元を思い切りぬぐう。
　それを機に、微かに未練の色が残っていた彼女の瞳にはもうその色はなく、強い決意を抱いたものへと変わっていた。