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ぐっと突きつけられた指に思わず後退る。
「今、机にうつ伏せになり、寝ていただろう」
「は……」
そんなこと?
確かに問題かもしれないけど、他にも寝てる人なんてたくさんいるでしょうに。
想像以上に小さな問題で、何て返したらいいか分からない。呆然と伊黒先生を見つめていると、「おお!」と晴れやかな声が飛んできた。
「よもやよもやだ! 伊黒先生!
いつの間にいらしたのか!」
「いや気づかなかったの!?」
「うむ、気が付かなかった!!」
鋭いツッコミが、我妻善逸から光の速さで突き刺さるものの、煉獄先生は、にこやかに受け流す。
「煉獄先生」
「どうかしたのか、伊黒先生!」
「授業を妨げて申し訳ないのだが、この生徒について相談させていただきたい」
煉獄先生が疑問符を浮かべる束の間、伊黒先生は私の手首を掴んで、皆に見えるように持ち上げた。
……はい?
「ちょ、ちょっと待って相談って何を」
「この生徒は、昼寝をしていた」
「うっ」
痛いところを公表されて、押し黙る。
伊黒先生は、じとりと私をひと目に言葉を繋げる。
「授業中に寝るなど笑止千万。
従って、今後こんな生徒があってはならない。何か処罰を下すべきではないのだろうか」
伊黒先生の爆弾発言に、ギョッとして見上げる。
う、嘘でしょそれ本気で言ってるの。
処罰って、一時間水入りのバケツを持って廊下に立たされるとか……?
同じ事を察したのか、クラスの哀れみの視線が私に集まる。や、やめてよそんな目で見ないで。本当に処罰食らっちゃうみたいじゃない。
縋る思いで煉獄先生を見れば、先生は腕組みをして考え込んでいた。
「しかし、授業で眠くなっていただけのことだろう?」
暫くして目を開けた煉獄先生が伊黒先生に問いかける。
「確かに、伊黒先生の言うとおり、授業中のうたた寝は見習えたものではない」
煉獄先生は少し悲しそうな、咎めるような目で私を見つめた。
つきんと胸が痛んだのは、云うまでもない。
自然に「すみません」と謝罪の言葉は口から漏れていった。
「だが、丁度、5時限目の眠気がくる時間でもある。処罰を下す程というには、少しばかり厳しい仕打ちだろう」
「れ、煉獄先生……」
「次、気をつければ大丈夫だろう。本人も反省しているようだしな!」
にっこりと私に笑顔を見せる先生が眩しくて、じんわりと涙が浮かんだ。
この先生、やっぱり良い先生だ。
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