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「あ、A」
ふと振り返った牛沢の退屈そうな表情が嬉しそうに変わっていく。来てくれたんだ、って笑う牛沢の笑顔はいつもと変わらなくて、理由もなく胸がざわつく。
「ごめん、」
長い沈黙の末、よくやく口から飛び出た言葉はシンプルなものだった。たったの一言なのに、その言葉は魚の小骨みたいに喉に引っかかって出てこなかった。
「俺が勝手にやったことだから気にすんな。それよりAは怪我してねぇの？」
「…牛沢のおかげで無事」
私の、テレビの音どころか雨音にすらかき消されてしまいそうな、小さいありがとうの言葉が聞こえているのかいないのか、牛沢は良かったと顔をくしゃっとさせて笑う。
その顔がずるくてずるくて仕方なかった。
ずきずきと痛みを訴える胸を抑えて、誤魔化すように言葉を紡いだ。
「体調はどう？」
「まあまあかな。めちゃくちゃ暇だけど」
「…あのさ、暇ならこれ、読む？」
私がおずおずと差し出したハードカバーの分厚い本の表紙を見て、牛沢が嬉しそうに笑った。
見して、って手を伸ばすから、本を渡そうと差し出した手と手が触れた。
「これ俺のためにわざわざ持ってきてくれたの？」
「うん、家にあったやつ。私が読んで面白かったから良かったら」
「うわありがと。読むわ」
ペラペラと初めの数ページだけざっと読んでからサイドテーブルに本を置いて牛沢は窓の外に視線を投げた。
気怠い病院の昼前、慌ただしく動くナースステーションから離れた場所にあるからか、ひどく静かなこの部屋は、閉めた窓に打ち付ける大粒の雨の弾ける音しか聞こえない。
心地よいけど微妙な空気感を破ったのはお互い発した言葉だった。
「「あのさ、」」
ぴったり重なった言葉に二人とも吹き出した。あはは、って笑う声が懐かしく感じた。三日前くらいまではこうやって笑えてたのに、それを忘れかけるほどにこの二日間は重くて鈍く私の心にのしかかっていた。
ひとしきり笑い終えた後、大きく息を吸い込んで、覚悟を決めて言葉を発した。
「…昨日の話なんだけど、」
「あのさ、先に俺の話聞いてくんね？」
覚悟を決めて発した言葉を簡単に遮られたことに呆気に取られて反射的に頷く。真剣な牛沢の眼差しに射止められて、恥ずかしくて下を向いてしまいそうになる。
「昨日の告白取り消してくれない？やっぱ俺は先輩が好き」
その言葉を言う牛沢の笑顔はぎこちなく強ばっていて、一目でその言葉が本心じゃないとわかった。
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二楷堂 - はじめまして。この作品を読ませて頂いてとても面白いな、と思いました。メンバーも豪華で見応えがあります。これからもチームVinegarさんのご活動応援させて頂きます。 (2015年9月16日 11時) (
レス) id: 395e3ef2a2 (このIDを非表示/違反報告)
津紀(プロフ) - 楽しみだけど無理しないでね。大好きだゾ〜 (2015年9月15日 23時) (レス) id: 2f0b1601a1 (このIDを非表示/違反報告)
ハル@チョコレート食べたい系女子(プロフ) - 皆さん新作(?)おめでとうございます!! 始めからとても面白くて、次のお話はいつかなぁと楽しみにしています！ ご無理なさらず頑張ってください!! (2015年9月15日 23時) (レス) id: 2184a38450 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：チームVinegar x他2人 | 作成日時：2015年9月13日 2時
