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｢俺のこと、覚えてなくてもいい。この指輪貰って?｣
嘘でしょ、とAの唇から声が漏れた。
買うだけ買って、あの日渡せなかったもの。
震える手にそっと填めると、大きく見開いた瞳からは涙がこぼれた。しゃくりをあげることもなく、重力に従って輪郭を伝った雫は床に跡を作る。
｢謝らなきゃいけないこと、あるの｣
指輪を胸に当て、心底幸せそうに笑うA。
｢記憶、あるんだぁ…｣
｢…いつ思い出したの?｣
｢ううん。最初、ここに呼ばれた時から｣
｢え、｣
｢呼び出された人はね、涙を人に見せたらいけないんだって。見せたってことは未練が果たせたってことになるらしいの。
私がここに来た時、ヒラ泣きそうな顔してたじゃない?もらい泣きなんてしたらすぐに消えちゃうから咄嗟に嘘ついた｣
待って。今なんて言った?
｢消える…?｣
｢うん｣
さぁ、と血の気が引いていく感じがした。
今涙を見てしまった。たったそれだけのことで…
頬が引き攣る。呼吸が浅くなるのを感じた。
｢冗談?質の悪い嘘?やだなぁ、今日エイプリルフールじゃないよ｣
｢ヒラ｣
｢っ、やだ…また独り?心折れそう。行かないで…｣
｢ヒラ。聞いて｣
両頬に彼女の小さな掌を当てられ、無理にそちらを向かされる。今感じられる人肌も、もう直ぐ無くなるということを考えてしまい、熱い感情が胸の奥から込み上げてきた。
｢私、幸せ。最後にこんなにも貴方に愛してもらってるって分かって｣
潤んだ瞳。涙のせいで視界はぼやけているのだろう。しかし、Aは逸らすことなく、しっかりと俺を見つめていた。
｢簡単に来ていいような世界じゃない。こっちは暗いよ｣
全て、見透かされていたらしい。
俺が生きる希望を失っていたことも、それによって命を絶とうとしていたことも。
死者に後戻りなんて選択肢はない。
でも、生者にはある。間違ったら何度だってやり直せる。
交わったお互いの視線。こつんと額がぶつかり、目を閉じれば、溜まった水滴と指輪が落ちる音がした。
床に落ちたそれはまだ暖かかった。
もう一度、視界が再び開けた時、Aはすでにそこには居ない。
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二楷堂 - はじめまして。この作品を読ませて頂いてとても面白いな、と思いました。メンバーも豪華で見応えがあります。これからもチームVinegarさんのご活動応援させて頂きます。 (2015年9月16日 11時) (
レス) id: 395e3ef2a2 (このIDを非表示/違反報告)
津紀(プロフ) - 楽しみだけど無理しないでね。大好きだゾ〜 (2015年9月15日 23時) (レス) id: 2f0b1601a1 (このIDを非表示/違反報告)
ハル@チョコレート食べたい系女子(プロフ) - 皆さん新作(?)おめでとうございます!! 始めからとても面白くて、次のお話はいつかなぁと楽しみにしています！ ご無理なさらず頑張ってください!! (2015年9月15日 23時) (レス) id: 2184a38450 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：チームVinegar x他2人 | 作成日時：2015年9月13日 2時
