彼とあの子。 ページ20
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早朝。
結局一睡も出来なかった私は少し早いが廃病院に向かうことにした。ヨコハマで廃病院といったら一つしかないから場所は分かっている。
「何処に行かれるのですか」
「……あの世に、行きます」
ホーソーンさんの目が僅かに開く。
そして「行くべきではありません」と静かに云う。
「ごめんなさい、ホーソーンさん。
これは私自身が決着をつけないといけないことなのです」
どうか、愛し君と幸せになってください。
これは、どうしても伝えたかったこと。
ホーソーンさんに背を向け、私は部屋から走り出た。もうホーソーンさんと逢うことはないだろう。短い間だったけど、彼には幸せになってほしいと心から祈った。
◆
「あの、今日で何徹目ですか……？」
新米エージェントである辻村深月は恐る恐るといった様子で訊いた。
「七徹目です」
「うわぁ……」
平然と答える安吾に辻村だけではなく、その場にいた全員が人間業じゃないと若干引いた。しかし、安吾には仕事しかないのだ。家に戻ってもAはいない。気を紛らすには仕事しかなかった。
一心不乱でコンピューターと向き合っていると、携帯が鳴った。安吾は溜め息を吐き、電話に応じる。
「あ、良かった。出てくれた」
「……太宰くん……！？」
友人の声に、安吾は驚愕した。
電話番号は知らないはず……否、太宰なら最早何でも有だ。
「用件は？」
「清野Aが廃病院に来る」
「……」
「私からはそれだけさ。来るも来ないも君次第。じゃあね」
一方的に電話を切られ、安吾は再びコンピューターと向き合う。先程の言葉が脳から離れない。そんな安吾を不安げに見守る部下たちを見て彼は苦々しい面持ちで口を開いた。
「……仕事、任せられますか」
「……もちろんです！」
任せてください！！と口を揃える部下を見て、安吾は穏やかに微笑んだ。
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