わたしの粛清。 ページ8
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叫び声、返り血、骨が砕ける音。
今まで無縁だったそれらすべてが、あの日以降、とても近いものとなった。夜空を見上げる。今日は満月。自分の手を見下ろす。
初めて握った時、銃はもっとずっと、重いものだった。
それが今では、鉛筆のように軽く感じられるから慣れというものは恐ろしい。
「さて、と」
粛清の時間だ。
フェンスから飛び降りると男はまるで怪物を見るような目を向けた。何で、逃げきれたはずなのに。男は唇を噛む。
「あなたの考えなんて、手に取るように判るのですよ」
男の額に、銃口を押し付ける。
その瞳が絶望に染まった。
人は敵わないと感じると無意味な命乞いを始める。生への執着。生きたいと願う人間は人を殺すべきではない。私はもう生も死もどうだってよかった。
「やめてくれ、頼む。頼むから」
「ほら案の定……藤嶋総太さん、あなたは己の身勝手な欲望で、少女を誘拐し暴行。そして殺害しました。罪を償う時です」
銃声が、夜の街に響く。
拳銃はすごい。一発で死ぬ。
苦しみを感じることもなく死んでいった死体の顔をヒールで踏み潰していると、携帯が鳴った。
「粛清が、完了しました」
───フョードル様
その名前の甘美なことよ。
───流石です。あなたの手腕は見事なものだ。
───有り難き幸せ。
───しかし、未だ武装探偵社には手出ししてはいけませんよ。もっと世間にあなたの存在を知らしめなくては。
───……仰せの通りに。
電話を切り、大きく舌を打った。
半ば八つ当たりのように、死体を蹴りつける。
遠くでサイレンの音が聞こえ、足を止めた。
「罪人の濁り切った魂が浄化されんことを」
その声に、一切の感情は込められていなかった。
死体に一瞥もくれずに、歩き出す。
こんな小物はどうでもよかった。
目的はただ一つ。
泉鏡花を、そしてすべての罪人共に鉄槌を下すことなのだから。
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