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三ヶ月前のあの日。
ぼんやりと地下鉄へと続く階段を降りていたら、後ろからけたたましい破裂音が断続的に聞こえて反射的に振り返った。勢い良く転がり落ちてきた何かをキャッチして見上げると、女の子が鞄をひっくり返して中身をぶちまけているところだった。
「やだ、ちょっと……!」
「あ、手伝います!」
慌てている彼女を避けるように、次々通り過ぎていく人波を睨み付けながら落下物を手早く拾い集める。すっかり恐縮した様子の彼女は、すみませんと何度も繰り返し、ぺこぺこと頭を下げ続けている。
「大丈夫ですよ、そんなに気にしないで下さい」
「でも……」
「僕が勝手にしたことですから……はい、これで全部です」
最後にハンカチを差し出すと、彼女はようやく笑ってそれを受け取ってくれた。綺麗なグラデーションに色取られた爪の先が、俺の手を微かに掠める。
「……ありがとうございます」
「とんでもないです、こういうのはお互い様ですから」
「ふふ、お兄さん、かっこいいですね」
「いや、そんなこと……」
彼女から出てきた言われ慣れない言葉にどぎまぎしてしまう。自分で言うのも何だが、「可愛い」と評されることは時たまあれど、「かっこいい」と褒められることなど殆どなかった。それが純粋な賞賛でなくただのお礼、社交辞令に近いものだとしても、俺を動揺させるには充分だったのだ。
「みんな見て見ぬふりするのに、ありがとうございます」
「あ、あんまりそう言われると、こう……」
「そんなに照れないで下さい……本当に嬉しかったです」
可笑しそうに笑う彼女を、今になってやっと真正面から見つめた。
ああ、可愛いな。
あれ、俺ってこんなに単純な人間だったかな。こんなにも簡単に、まさか。
「じゃあ、これで……本当にありがとうございました」
「あ、あの!」
「はい?」
「…………連絡先、教えて貰えませんか?」
「…………もちろん」
ああ、どうやらその「まさか」らしい。恋はするものじゃなくて云々なんて、信じていなかったはずなんだけどな。こんな浮つきまくっている足元では、俺の方が転んでしまいそうだ。
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夢野(プロフ) - 楽しく読みました。ありがとうございました!ただただ短編集だと思って読み始めて、sgiさんのお話あたりで、あれ??ん??これは?ってなりました。そこからもうワクワクが止まらなくてニヤニヤしてしまいました。ごちそうさまでした! (2020年4月14日 1時) (レス) id: bce1609b2c (このIDを非表示/違反報告)
わらべ(プロフ) - 更新お疲れ様でした。企画力もさることながらこの人数での様々な伏線と、その伏線回収には感動さえ覚えました!裏の状況は読者には分かりませんが沢山の人が関わり沢山の時間が必要だったと思われます、お疲れ様でした!そしてありがとうございました! (2020年4月13日 21時) (レス) id: 9fc6a8ac01 (このIDを非表示/違反報告)
さき(プロフ) - 皆様天才です、、読み進めるのが本当に楽しかったです、、! (2020年4月13日 21時) (レス) id: 390861d6bc (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:SM | 作成日時:2020年4月1日 23時