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あぁ、やっぱり君は"良い彼女"だ。
俺には彼女しかいないな、と、こういうときあらためて思わされる。
改札に向かって歩き出そうとする彼女の手を引いて立ち止まらせる。
周囲に人がいないのを目の端で確認して、彼女の薄い肩を抱き寄せた。
少し腕に力をこめると、彼女が息を飲んだのがわかる。
「ごめんな、A。俺、こんなだけどさ。……Aのこと、本当に大切にしたいって思ってるから」
俺なりの精一杯で彼女の目を見てそう言うと、数瞬ののち彼女は俺の視線から逃れるように俯向いた。
耳にかけた髪がさらりと流れて彼女の表情を隠す。蛍光灯に照らされて、ブラウンベージュの髪がつやつやと光っている。
しばらくして顔を上げた彼女は、柔らかく微笑んでこう言った。
「知ってるよ。ありがとう拓司くん」
じゃあ、またね。お仕事がんばって。
彼女はやんわりと手を離して改札に向かって行く。
「A、あのさ」
その髪色、似合ってるよ。
そう言おうとしたけれど、ブラウンベージュのそれが新しい髪色かどうか、やっぱり自信が持てなくてやめた。
「……また電話する、明日」
「……無理しないでいいよ!」
ほとんど守られたことのない約束を笑って聞き流して、今度こそ彼女は改札に消えていった。
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夢野(プロフ) - 楽しく読みました。ありがとうございました!ただただ短編集だと思って読み始めて、sgiさんのお話あたりで、あれ??ん??これは?ってなりました。そこからもうワクワクが止まらなくてニヤニヤしてしまいました。ごちそうさまでした! (2020年4月14日 1時) (レス) id: bce1609b2c (このIDを非表示/違反報告)
わらべ(プロフ) - 更新お疲れ様でした。企画力もさることながらこの人数での様々な伏線と、その伏線回収には感動さえ覚えました!裏の状況は読者には分かりませんが沢山の人が関わり沢山の時間が必要だったと思われます、お疲れ様でした!そしてありがとうございました! (2020年4月13日 21時) (レス) id: 9fc6a8ac01 (このIDを非表示/違反報告)
さき(プロフ) - 皆様天才です、、読み進めるのが本当に楽しかったです、、! (2020年4月13日 21時) (レス) id: 390861d6bc (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:SM | 作成日時:2020年4月1日 23時