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 Aと別れてからは、淡々とやるべき事をこなす毎日だった。Aからの呼び出しが無くなっても、講義の課題は山ほど出るし執筆活動も忙しく、暇な日は殆ど無い。お陰で余計な事を考えずに済んだ。完全に忘れ去る事はないだろうけど。だって、嫌いになったわけじゃないのだから。それでもこうやって、少しずつ考える時間が減って、思い出になって前に進んで行くのだろう。
 
 ──そう思っていたのに、彼女は突然目の前に現れた。


「……拓朗?」
「え……A……?」


 買い物中偶然再会したAは、さらに綺麗になっていた。彼氏のお陰なのだろうかと思うと、何だか複雑な気持ちになる。


「……久しぶりだね、元気?」
「まぁ何とか。そっちは」
「うん、私もまぁまぁかな」


 曖昧な返事。探り探りの距離感。当然だ、あんな別れ方をしたのだから。やっと当たり前になりつつあったAのいない日常が揺らぐ。早くこの場を去らなければ、また思い出す頻度が上がってしまうかもしれない。


「ねぇ拓朗。今度一緒にご飯とか、ダメかなぁ」
「え……」


 縋るような目に、寂しげな表情に、なんだか酷くショックを受けた。付き合い始めた当初、不安そうに「私の事、好き?」と確認していたAと同じだ。どうして。Aは今、幸せじゃないのか。俺と別れて先輩と付き合って、きっと幸せになると思っていたのに。


「だって、先輩は」
「先輩……? あぁ、あの時の?」


 彼氏がいるのに、元彼と2人でご飯はだめやろ。そう諭してこの場を去ろうと思った。


「あの時の先輩はお断りしたから、付き合ってないよ。今はフリーだから心配しないで」
「付き合ってない……?」
「そう。だって、私は拓朗が好きだったんだもの」


 Aの言葉が頭の中でリフレインする。
 

「もう今更だけど、私は……引き止めて欲しかったの」


 この時やっと気づいたんだ。
 大切だった彼女に大きな傷を残した事に。あんなに俺の気持ちを確かめたがっていたAにとって、あっさりと身を引いた俺はどう見えただろう。

 失望しただろうか。
 やっぱりか、と思っただろうか。

 どちらにせよ、俺の何倍も傷付いたはずだ。


「あは、そんな顔しないで」
「A、俺は」
「ねぇ、今度こそゆっくり話そうよ。今なら色々、素直に話せる気がするの」


 そう言って笑ったAに、俺はただ頷くしかなかった。

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夢野(プロフ) - 楽しく読みました。ありがとうございました!ただただ短編集だと思って読み始めて、sgiさんのお話あたりで、あれ??ん??これは?ってなりました。そこからもうワクワクが止まらなくてニヤニヤしてしまいました。ごちそうさまでした! (2020年4月14日 1時) (レス) id: bce1609b2c (このIDを非表示/違反報告)
わらべ(プロフ) - 更新お疲れ様でした。企画力もさることながらこの人数での様々な伏線と、その伏線回収には感動さえ覚えました!裏の状況は読者には分かりませんが沢山の人が関わり沢山の時間が必要だったと思われます、お疲れ様でした!そしてありがとうございました! (2020年4月13日 21時) (レス) id: 9fc6a8ac01 (このIDを非表示/違反報告)
さき(プロフ) - 皆様天才です、、読み進めるのが本当に楽しかったです、、! (2020年4月13日 21時) (レス) id: 390861d6bc (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:SM | 作成日時:2020年4月1日 23時

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