・ ページ21
Aと付き合ったのは、7年も前の事。受験が終わり大学に入る前の、開放感と自由時間に浮き足立った時期の事だった。 7年だなんて言葉にすると、あまりにも昔のようだが今でもはっきりと思い出せる。
「私、拓朗くんが好き」
夕暮れの誰もいない公園で、そう告げたAの声、表情、肌寒いひんやりとした空気と、頬に熱の集まる感覚。
信じられない思いがしたが、目の前にいるAは確かそう言った。俺を真っ直ぐと、でも恥ずかしそうに見つめて。ほんのりと赤く染まった顔も、潤んだ瞳も、俺の服の裾を摘む震えた指先も、全てが彼女の言葉に嘘はないと、本心なのだと示していた。本当に俺でええの? 出かかった言葉を呑み込んで、なんとか言葉を紡ぐ。
「……俺も。その……だから、付き合ってください」
「よかったぁ、嬉しい……!」
この時見た幸せそうな笑みが、今思えば1番の笑顔だったんじゃないか、だなんて自虐的な想いは今も消えないまま。
確かに彼女が大切だった。その笑顔を守りたかったし、幸せにしたかった。けれどあまりに俺たちは幼くて、不器用だった。大切にするって、どうすればいいんだろうか。本気でそんな事を考えて、答えは結局分からないままだった。
「ねぇ、一緒に行きたい所があるの」
「ええよ、どこ?」
彼女の望みは叶えたかった。
「拓朗、会いたいよ……」
「待ってて。そっち、行くから」
深夜、急に寂しくなったという彼女のわがままだって、可愛くて嬉しいくらいだった。
「拓朗、私の事、好き?」
「……好きや」
ただ、想いを言葉にするのは少し苦手だった。どちらかといえばストレートなAと違って、俺は一言小さく返すのが精一杯で。それでも聞かれたら答えるようにしていたし、行動でも伝わっていると信じていた。
けれど、多分Aは不安だったのだろう。いつしかAは、自分の事を好きかと聞かなくたった。その代わりに甘えやわがままが加速していった。どこまで受け入れてくれるのか試すように、俺の気持ちを確認するかのように。客観的に見れば、きっと馬鹿な2人だと思うのだろう。けど、俺たちは俺たちなりに必死だった。
愛されているか確認したい。
愛してるとわかって欲しい。
そんな想いは、2人の関係を少しずつ捻じ曲げていった。
227人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
夢野(プロフ) - 楽しく読みました。ありがとうございました!ただただ短編集だと思って読み始めて、sgiさんのお話あたりで、あれ??ん??これは?ってなりました。そこからもうワクワクが止まらなくてニヤニヤしてしまいました。ごちそうさまでした! (2020年4月14日 1時) (レス) id: bce1609b2c (このIDを非表示/違反報告)
わらべ(プロフ) - 更新お疲れ様でした。企画力もさることながらこの人数での様々な伏線と、その伏線回収には感動さえ覚えました!裏の状況は読者には分かりませんが沢山の人が関わり沢山の時間が必要だったと思われます、お疲れ様でした!そしてありがとうございました! (2020年4月13日 21時) (レス) id: 9fc6a8ac01 (このIDを非表示/違反報告)
さき(プロフ) - 皆様天才です、、読み進めるのが本当に楽しかったです、、! (2020年4月13日 21時) (レス) id: 390861d6bc (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:SM | 作成日時:2020年4月1日 23時